からだが冷えると風邪を引くって本当?
一言でいうと...
からだが冷えただけでは、風邪は引きません。風邪にはウイルスへの感染が必要です。 ただし、冷たい空気で鼻の中が冷えると、ウイルスを追い払う力が一時的に弱まる可能性があります。 つまり、冷えは風邪の「原因」ではないけれど、感染後の発症を後押しすることはあり得ます。
詳しくは...
風邪の原因は「寒さ」ではなくウイルス
一般に風邪と呼ばれる症状は、ライノウイルスなどが鼻やのどに感染して起こります。 寒い場所に出たり、雨に濡れたりしただけで、何もないところからウイルスが生まれるわけではありません。
たとえるなら、ウイルスが火種で、冷えは風です。火種がなければ風だけで火はつきません。 けれど、すでに小さな火種があれば、風が燃え広がるのを助けることはあり得ます。
ウイルスを入れてから冷やした実験では、差がなかった
1968年には、ライノウイルスに対する抗体を持たない44人の鼻に実際にウイルスを入れ、 冷やす群と冷やさない群を比べる実験が行われました。冷やす処置は、4℃の部屋や 32℃の水浴への曝露で、ウイルスを入れたとき、潜伏中、症状が最も強い時期、回復期に行われました。
結果は、感染の成立、症状の重さ、鼻から出るウイルス量、抗体反応のいずれにも明らかな差がありませんでした (Douglas et al., 1968)。 少なくともこの条件では、からだを冷やしても風邪にかかりやすくはなりませんでした。
ところが、足を冷やした実験では症状が増えた
2005年には、健康な180人をくじ引きで2群に分けた実験が行われました。半数は裸足を10℃の水に20分間つけ、 残りの半数は靴と靴下を履いたまま空の容器に足を入れました。
その後4〜5日間に「風邪を引いた」と自己申告した人は、足を冷やした群で13人/90人、 対照群で5人/90人でした。期間中の症状の合計点も、冷やした群のほうが高くなりました (Johnson & Eccles, 2005)。
一見すると「やはり冷えると風邪を引く」ように見えます。しかし、この研究はウイルス検査をしていません。 冷やした後に新しく感染したのか、実験前から気づかない感染があって症状だけが表に出たのか、 寒さによる鼻水などを風邪と感じたのかは区別できません。実際、発症を申告した人は、もともと年間の風邪回数が 多い人たちでもありました。
鼻が冷えると、防御が弱くなる仕組みはありそう
近年の実験からは、「感染の有無」とは別に、冷たさが鼻の防御に影響する仕組みが見えてきました。
ライノウイルスに感染させたマウスの気道細胞を比べると、鼻の中に近い33℃では、体の中心に近い37℃よりも ウイルスへの防御反応が弱く、ウイルスが増えやすくなりました (Foxman et al., 2015)。
さらに、人の鼻でも似た手がかりがあります。健康な人が寒い環境に入ると、鼻の中の温度はおよそ5℃低下しました。 研究者がこの温度差を人の鼻の細胞と摘出組織で再現したところ、細胞が放出する「ウイルスを捕まえたり、 周囲の細胞に防御情報を届けたりする小さな袋」の数と働きが低下しました (Huang et al., 2023)。
ただし、これらは細胞や摘出組織の研究です。「寒い日に人が何人風邪を引いたか」を調べたものではありません。 示しているのは、すでにウイルスに出会ったとき、冷えた鼻では初期防御が弱くなる可能性です。
結局、どう考えればいい?
- 冷えだけでは風邪にならない。 ウイルスへの曝露が必要です。
- 体を温めることは快適さのためには大切ですが、それだけで感染を防げるわけではありません。
- 風邪を避けるなら、冷やさないことだけに頼らず、換気、手洗い、人が密集する場所での感染対策を優先するほうが筋が通ります。
- 冷えた後に風邪を引いても、「冷えがウイルスを作った」のではなく、すでに感染していたか、その後に感染したと考えるのが自然です。
ただし...
- ヒトの直接実験は少なく、結果も一致していない。 Douglas et al. (1968) は冷却による感染・症状の増加を 検出しなかった一方、Johnson & Eccles (2005) は自己申告症状の増加を報告した。このため確度は「中」とした。
- Douglas et al. (1968) は44人という小規模な試験で、単一のライノウイルス株を人工的に接種している。 現実の生活には多数の風邪ウイルスがあり、曝露量や経路も異なる。古い研究である点にも留意が必要。
- Johnson & Eccles (2005) は無作為化試験だが、冷水か空の容器かは参加者本人に分かるため、盲検化できていない。 発症は自己申告で、診察やウイルス検査による感染確認もなかった。主要な人数差のP値は0.047で、 慣習的な基準をわずかに下回る程度だった。
- Foxman et al. (2015) は主にマウスの気道細胞を使った研究。Huang et al. (2023) は人の鼻の細胞と 摘出組織を使っているが、実際の風邪の発症率は測っていない。機序がもっともらしいことと、日常生活での効果の 大きさが確認されたことは同じではない。
- 「冷える」の条件は研究ごとに違う。全身を冷気にさらす、足を冷水につける、鼻の温度を下げることは 同じ曝露ではない。普通の冬の外出、雨で濡れること、低体温症を一括りにはできない。
- 冬に風邪が増える理由は鼻の温度だけではない。低湿度、換気の減少、屋内で人同士が近づく時間の増加なども 同時に変わるため、季節による増加をそのまま「冷えの効果」とみなすことはできない。
- このページでいう風邪は、主にウイルス性の上気道感染症を指す。重い低体温症や、寒さで悪化する喘息などは別の問題。
参考文献
- Douglas, R. G., Jr., Lindgren, K. M., & Couch, R. B. (1968). Exposure to Cold Environment and Rhinovirus Common Cold—Failure to Demonstrate Effect. The New England Journal of Medicine, 279(14), 742–747. https://doi.org/10.1056/NEJM196810032791404
- Johnson, C., & Eccles, R. (2005). Acute cooling of the feet and the onset of common cold symptoms. Family Practice, 22(6), 608–613. https://doi.org/10.1093/fampra/cmi072
- Foxman, E. F., Storer, J. A., Fitzgerald, M. E., et al. (2015). Temperature-dependent innate defense against the common cold virus limits viral replication at warm temperature in mouse airway cells. Proceedings of the National Academy of Sciences, 112(3), 827–832. https://doi.org/10.1073/pnas.1411030112
- Huang, D., Taha, M. S., Nocera, A. L., Workman, A. D., Amiji, M. M., & Bleier, B. S. (2023). Cold exposure impairs extracellular vesicle swarm-mediated nasal antiviral immunity. Journal of Allergy and Clinical Immunology, 151(2), 509–525.e8. https://doi.org/10.1016/j.jaci.2022.09.037