少量のお酒でも身体に悪いの?
一言でいうと...
はい。「少量なら健康への悪影響がまったくない」とは言えません。 とくに一部のがんや高血圧は、少量からリスクが上がる可能性があります。 ただし、少し飲んだだけで大病になるという意味ではなく、飲む量が少ないほど増えるリスクも小さくなります。
詳しくは...
「少量」と「安全」は同じではない
お酒の影響は、飲み物の量ではなく、中に含まれる純アルコールの重さで比べると分かりやすくなります。 純アルコール量は「飲んだ量 × アルコール度数 × 0.8」で計算でき、5%のビールなら 350mlで約14g、500mlで20gです。
厚生労働省のガイドラインは、飲酒量が少ないほどリスクは少なくなると説明しています。 日本人の研究をまとめた表では、高血圧、男性の食道がん、女性の出血性脳卒中などは、 「この量までは安全」と言える境目が見つからず、少量でもリスクが上がるとされています (厚生労働省, 2024)。
少量でも、すべてのがんが同じように増えるわけではない
少量飲酒とがんを調べたメタ解析では、1日1杯までの飲酒で、口・のどのがんは1.17倍、 食道の扁平上皮がんは1.30倍、女性の乳がんは1.05倍の関連がありました。 一方、この解析では大腸がん、肝がん、喉頭がんとの明らかな関連は見つかりませんでした (Bagnardi et al., 2013)。
つまり、アルコールは「少しでも全身を同じ割合で悪くする」のではありません。 病気によって影響の出方が違い、少量で確認される上昇幅も多くは小さいものです。
日本の全国規模の病院データでは、がん患者63,232人と、年齢・性別などをそろえた がんでない患者63,232人を比較しました。この研究は、純アルコール約23gを毎日飲む年数で 生涯の量を表しています。23gを毎日10年飲む積み上げが増えるごとに、全がんとの関連の強さは 1.05倍(結果のぶれを含めると1.04〜1.06倍)でした。最も低かったのは、生涯飲酒量がゼロの群でした (Zaitsu et al., 2020)。
ここでいう1.05倍は、「がんになる確率が5ポイント増える」という意味ではありません。 もともとの発症率がどれくらいかによって、実際に増える人数は変わります。
「少し飲むほうが長生き」は、確かな健康効果とは言えない
少量の飲酒は心臓に良い、飲まない人より長生きする、と聞くことがあります。 しかし、お酒を飲まない人の中には、病気になってやめた人が混じることがあります。 また、少量を飲む人は食事、運動、収入、医療へのアクセスなども違うかもしれません。 これでは、お酒そのものの効果と、それ以外の違いを分けにくくなります。
107件の追跡研究、約484万人をまとめ、こうした偏りをできるだけ調整した2023年の解析では、 1日1.3〜24gの飲酒によって全死亡が減るとは確認できませんでした (関連の強さ0.93倍、統計的には明確でない;Zhao et al., 2023)。 少量飲酒に「長生きのための薬」のような効果がある、とは言えないという結果です。
中国の約50万人を追跡し、お酒の分解に関わる遺伝的な違いも利用した研究でも、 自己申告だけを見ると中程度の飲酒者の脳卒中が少ないように見えましたが、遺伝的な分析ではその形は再現されませんでした。 飲酒量が増えるほど血圧と脳卒中が増え、中程度の飲酒が脳卒中を防ぐ証拠は得られませんでした (Millwood et al., 2019)。
では、飲むならどう考える?
- 健康のために、飲んでいない人が新しく飲み始める理由はありません。
- 飲む人は「安全量を守ればゼロリスク」と考えず、量と回数を減らすほどリスクも下がる、と考えるのが実用的です。
- 厚労省が示す「男性40g以上、女性20g以上/日」は、生活習慣病リスクを高める飲酒者を減らすための目標です。そこまでなら安全という上限ではありません。
- 飲む量を把握するなら、酒の種類ではなく純アルコール量で数えます。休肝日を設け、1回にまとめて飲まないことも大切です。
ただし...
- 少量飲酒を何十年も無作為に割り当て、がんや死亡まで追う試験は現実的ではない。 根拠の中心は観察研究と その統合解析で、飲酒量の自己申告、生活習慣の違い、飲酒をやめた人の扱いなどによる交絡が残る。 このため、証拠の確度は「中」とした。
- Bagnardi et al. (2013) は多数の研究を統合したが、少量の定義、飲み方、比較群、調整項目は研究ごとに異なる。 病気によっては関連が見つからず、少量飲酒がすべてのがんを増やすとは示していない。
- Zaitsu et al. (2020) は日本全国の大規模データだが、病院を受診・入院した患者同士を比べた症例対照研究である。 生涯の飲酒量を思い出して答えるため、記憶の誤差があり、一般住民をそのまま代表するとは限らない。 また、1.05はオッズ比であり、個人の絶対リスクの増加量ではない。
- Zhao et al. (2023) は少量飲酒による全死亡の減少を確認できなかった研究であり、少量飲酒が全死亡を 明確に増やしたと証明した研究ではない。研究間のばらつきも大きい。
- Millwood et al. (2019) の遺伝的分析は主に中国人男性の脳卒中について強い情報を与えるが、女性の飲酒者が少なく、 心筋梗塞については結論が不確かだった。遺伝子を利用した研究にも、分析上の仮定と対象集団の限界がある。
- 2022年の世界疾病負担研究では、少量が一部の心血管疾患などを減らす可能性も含めると、人口全体の健康損失が 最小になる量は年齢・性別・地域で異なると推定された。とくに若い人ではほぼゼロだったが、年齢が高い集団では ゼロを少し上回る場合もあった(GBD 2020 Alcohol Collaborators, 2022)。 これは人口モデルであり、個人に飲酒を勧める根拠ではない。
- 同じ純アルコール量でも、年齢、性別、体格、体質、持病、薬、飲む速さによって影響は変わる。 顔が赤くなる体質の人、妊娠・授乳中、服薬中や療養中の人などは、平均値とは別に考える必要がある。
- このページは長期的な健康リスクを中心に扱った。少量でも酔いによる運転・転倒・事故、薬との相互作用は起こり得る。
参考文献
- Bagnardi, V., Rota, M., Botteri, E., et al. (2013). Light alcohol drinking and cancer: a meta-analysis. Annals of Oncology, 24(2), 301–308. https://doi.org/10.1093/annonc/mds337
- Zaitsu, M., Takeuchi, T., Kobayashi, Y., & Kawachi, I. (2020). Light to moderate amount of lifetime alcohol consumption and risk of cancer in Japan. Cancer, 126(5), 1031–1040. https://doi.org/10.1002/cncr.32590
- Millwood, I. Y., Walters, R. G., Mei, X. W., et al. (2019). Conventional and genetic evidence on alcohol and vascular disease aetiology: a prospective study of 500,000 men and women in China. The Lancet, 393(10183), 1831–1842. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(18)31772-0
- GBD 2020 Alcohol Collaborators. (2022). Population-level risks of alcohol consumption by amount, geography, age, sex, and year: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2020. The Lancet, 400(10347), 185–235. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(22)00847-9
- Zhao, J., Stockwell, T., Naimi, T., Churchill, S., Clay, J., & Sherk, A. (2023). Association Between Daily Alcohol Intake and Risk of All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-analyses. JAMA Network Open, 6(3), e236185. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2023.6185
- 厚生労働省 (2024). 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン. https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf