いぬは嬉しいときにしっぽを振るの?

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一言でいうと...

はい、犬は嬉しいときにしっぽを振ります。ただし、しっぽを振る犬が必ず嬉しいとは限りません。 しっぽ振りは「何かに反応している」という合図で、期待、不安、葛藤などでも起こります。 表情、耳、体の硬さ、近づこうとしているかまで一緒に見ないと、気持ちは判断できません。

詳しくは...

しっぽは「嬉しさのメーター」より、気持ちを伝える掲示板

犬のしっぽは、ほかの犬や人に向けた目立ちやすい合図です。2024年にこれまでの研究を整理した論文では、 犬は飼い主と会うとよくしっぽを振る一方、知らない人、ほかの犬、食べ物、動く物などにも反応して振るとまとめられています。 しっぽの位置と動き方は、犬同士だけでなく、犬と人とのやり取りでも情報を伝えます (Leonetti et al., 2024)。

つまり、飼い主を見て体全体をゆるく動かしながら振っているなら、嬉しさや近づきたい気持ちの手がかりになります。 しかし、振っているという事実だけでは、その反応が快いものか不快なものかまでは決まりません。

欲しい食べ物を取り上げられたときにも振った

2022年の実験では、家庭で飼われている犬49頭に、食べ物をもらえる場面と、見えている食べ物を 取り上げられる場面を体験させました。取り上げられる場面では、人が見ている条件と、誰も見えていない条件も比べました。

犬のしっぽ振りは、食べ物を取り上げた人が見えているときのほうが、誰も見えていないときより多くなりました。 同時に、耳を伏せる、まばたきをする、鼻をなめる、鳴くといった行動も増えました (Pedretti et al., 2022)。

これは「犬が嫌がらせをされて喜んだ」という意味ではありません。研究者は、しっぽ振りには、目の前の人に 要求やなだめる気持ちを伝えるような社会的な合図の役割がある可能性を指摘しています。 少なくとも、しっぽ振りが嬉しい場面だけに出る行動ではないことが分かります。

振る向きにも違いはあるが、簡単な翻訳表にはできない

犬がほかの犬の映像を見る実験では、犬から見て左側へ大きく振る映像を見たとき、右側へ大きく振る映像より 心拍数が上がり、不安を示す行動が多くなりました (Siniscalchi et al., 2013)。

また、実験用のビーグル犬と知らない人との交流を3日間追った研究では、最初は左寄りか左右差のない振り方だったものが、 交流を重ねると右寄りへ変わりました。研究者は、右寄りの振り方が相手への慣れと関連する可能性を示しています (Ren et al., 2022)。

ただし、「右なら嬉しい、左なら怒っている」と一瞬で判定できるわけではありません。 ロボット犬を使った452回の接近場面では、左に振るロボットへ止まらず近づく犬が多く、予想どおりの反応にはなりませんでした (Artelle et al., 2011)。 左右差は興味深い手がかりですが、日常で単独の判定法として使えるほど確立してはいません。

では、どう見ればいい?

  • しっぽだけでなく、全身がゆるいか硬いか、耳や口元、視線、近づくか離れるかを一緒に見ます。
  • しっぽの高さや速さの意味は、犬種、普段のしっぽの位置、体格、個体によって違います。その犬の普段との比較が大切です。
  • しっぽを振っていても、体を固くする、動きを止める、距離を取ろうとするなど別のサインがあれば、喜んで触られるとは決めつけません。
  • 知らない犬には、しっぽ振りだけを理由に手を出さず、飼い主に確認し、犬自身が近づくかを待つほうが安全です。

ただし...

  • 犬は自分の感情を言葉で報告できないため、「嬉しい」「不安」といった解釈は、状況、行動、心拍、ホルモンなどからの推定になる。 人間の感情名をそのまま当てはめすぎない注意が必要。
  • Leonetti et al. (2024) は、しっぽ振りは身近なのに定量研究が少なく、結果は断片的で、統一的な理論もまだないと指摘している。 精密な意味を読み取れるというより、「嬉しいだけではない」という結論のほうが確かである。
  • Pedretti et al. (2022) は49頭を使った反復実験だが、食べ物を与える・取り上げるという限られた場面だった。 人が見ている嬉しい条件が用意されていないため、しっぽ振りが要求、なだめ、興奮のどれを表したかは区別できない。
  • Siniscalchi et al. (2013) は動く犬の映像、Artelle et al. (2011) はロボット犬を見せた実験であり、実際の犬同士の交流とは違う。 左右差に対する反応も両研究で単純には一致しなかった。
  • Ren et al. (2022) は実験施設のビーグル犬と人の短期間の交流を調べた研究で、家庭犬やすべての犬種へそのまま広げられない。
  • 左右差は犬自身から見た方向である。さらに、接近したい/離れたいという動機と、嬉しい/不快という感情は完全に同じではない。
  • 巻き尾、短い尾、断尾された犬、毛の長い犬では位置や動きが見えにくい。尾の形が違う犬同士を同じ基準で比べることも難しい。

参考文献

  • Leonetti, S., Cimarelli, G., Hersh, T. A., & Ravignani, A. (2024). Why do dogs wag their tails? Biology Letters, 20(1), 20230407. https://doi.org/10.1098/rsbl.2023.0407
  • Pedretti, G., Canori, C., Marshall-Pescini, S., Palme, R., Pelosi, A., & Valsecchi, P. (2022). Audience effect on domestic dogs’ behavioural displays and facial expressions. Scientific Reports, 12, 9747. https://doi.org/10.1038/s41598-022-13566-7
  • Siniscalchi, M., Lusito, R., Vallortigara, G., & Quaranta, A. (2013). Seeing left- or right-asymmetric tail wagging produces different emotional responses in dogs. Current Biology, 23(22), 2279–2282. https://doi.org/10.1016/j.cub.2013.09.027
  • Ren, W., Wei, P., Yu, S., & Zhang, Y. Q. (2022). Left-right asymmetry and attractor-like dynamics of dog’s tail wagging during dog–human interactions. iScience, 25(8), 104747. https://doi.org/10.1016/j.isci.2022.104747
  • Artelle, K. A., Dumoulin, L. K., & Reimchen, T. E. (2011). Behavioural responses of dogs to asymmetrical tail wagging of a robotic dog replica. Laterality, 16(2), 129–135. https://doi.org/10.1080/13576500903386700