電子書籍って頭に入らない......これって気のせい?
一言でいうと...
気のせいとは言い切れません。ただし差はかなり小さいです。
紙と画面で同じ文章を読ませた実験をまとめ直すと、どのまとめでも紙のほうがわずかに成績がよい、 という同じ向きの結果が出ています。ただし物語を読むときはほぼ差がなく、 差が目立つのは説明文のほうです。
詳しくは...
まず、差はある。でも「わずか」
同じ文章を紙と画面の両方で読ませて成績を比べる実験は、20年以上前から山ほどあります。 1本ずつ見ると結果はバラバラなので、たくさんの実験を集めて平均を出し直すという手法があります。 それを使った代表的なものが2018年に出ました。2000年から2017年までの54件、 のべ171,055人分をまとめたものです(Delgado et al., 2018)。
結果は g = −0.21。マイナスは画面のほうが低いという意味です。 「g」は差の大きさを表す目盛りで、0.2で「小さい」、0.5で「中くらい」というのが慣例的な目安。 つまり「小さい」の入り口あたり、というのがこの分野の平均的な答えです。
ほぼ同じ時期に、くじ引きで紙か画面かを割り振った実験だけに絞ったまとめも出ています。 33件、のべ2,799人で g = −0.25(Clinton-Lisell, 2019)。 条件を厳しくしても、向きも大きさも変わりませんでした。
電子書籍リーダーやタブレットに限っても、差は消えない
ここまでの実験の多くは、画面といってもデスクトップのパソコンです。 電子書籍を読むときに使うのは、たいてい電子書籍リーダーやタブレットのほうです。 「本に近い持ち方ができる端末なら違うのでは」という疑問が当然出てきます。
そこで、タブレットや電子書籍リーダーだけに絞って集め直したものが2023年に出ました。 別々の人を割り振った実験38件で g = −0.113、同じ人に両方読ませた実験21件で g = −0.103。 どちらも小さいけれど、確かに紙のほうが上でした (Salmerón et al., 2023)。
差はパソコンのときのおよそ半分に縮みますが、ゼロにはならない。 ついでにこのまとめでは、大学生のほうが小中学生よりも差が大きいという傾向も出ています。 「若い世代は画面に慣れているから平気」という話とは、少し向きが違います。
説明文では出て、物語では出ない
いちばん安定して見えているのが、文章の種類による違いです。
くじ引き実験だけを集めたまとめでは、
- 説明文(教科書や記事のような、情報を伝える文章)……g = −0.32
- 物語……g = −0.04(ほぼ差なし)
とはっきり分かれました(Clinton-Lisell, 2019)。 54件のまとめのほうでも、物語だけを使った研究では紙の優位が出ていません (Delgado et al., 2018)。
実際に長い小説で試した実験もあります。50人が28ページ(読むのに約1時間)の推理小説を、 紙の文庫本かKindleで読みました。ほとんどのテストで成績は同じ。 唯一違ったのが、「出来事がどの順番で起きたか」を問う問題で、ここだけ紙が上でした (Mangen et al., 2019)。
小説を電子書籍で読むぶんには、そこまで気にしなくてよさそうです。
「分かったつもり」になりやすい、という話
面白いのはここからです。読むのにかかった時間は、紙でも画面でも変わりませんでした (14件・1,233人で g = 0.08、差とは言えない水準)。 ところが、読んだあとに「自分はどれくらい解けそうか」を予想させると、 紙で読んだ人のほうが予想が当たっていました(11件・698人で g = 0.20)。 どちらも同じまとめの中の結果です(Clinton-Lisell, 2019)。
この線を最初に押し出したのが2011年の実験です。1,000〜1,200語の説明文を読ませて、 そのあとのテストの点を自己予想させました。
- 時間を固定して読ませたとき……成績に差はなし
- 自分のペースで読ませたとき……画面のほうが成績が低い
著者らは、紙と画面の違いは理解する力そのものではなく、 「自分がどれくらい分かったかの見積もり」と「時間の配り方」のほうにあると結論づけています (Ackerman & Goldsmith, 2011)。
「頭に入らない気がする」という感覚は、じつは逆かもしれません。 画面で読むと、分かっていないのに分かった気になりやすい。 そのズレに後から気づくから、居心地の悪さとして残る——という筋書きです。
子どもの場合は、画面の作り方しだい
1〜8歳を対象にした実験39件(1,812人)のまとめもあります。
- 紙の絵本をそのまま画面に移しただけの電子絵本 → 理解は紙より低い
- 話の筋に沿った仕掛け(内容に合った動きや音)を足した電子絵本 → 紙より高い
- 辞書機能 → 話の理解にはマイナスかゼロ、語彙の学習にはプラス
(Furenes et al., 2021)。 つまり子どもについては、「画面か紙か」より「その画面に何が載っているか」のほうが効いています。
10歳の子ども1,139人に、同じ人が紙とデジタルの両方で読解テストを受けてもらった調査もあります (順番は入れ替え済み)。平均するとデジタルのほうが低く、 その差はもともと成績のよい子で目立った、という結果でした (Støle et al., 2020)。
ふだんの読書習慣のほうはどうか
実験ではなく、「ふだんデジタルでよく読む人は読解が得意か」を調べたものもあります。 のべ469,564人分・40件を集め直した結果は r = 0.055。 ほとんど無関係と言っていい小ささで、紙の読書習慣で見つかっているつながりよりずっと弱い。 しかも小中学生ではマイナス、高校生・大学生ではプラスと、符号がひっくり返ります (Altamura et al., 2023)。
アメリカの全国学力調査(4年生149,400人・8年生144,900人)の分析でも、 国語の授業でデジタル機器を使う時間が長いほど読解の点が低いという関係が出ています。 ただし同じ分析で、読書のプロジェクトに使う場合はプラスでした (Salmerón et al., 2022)。
差が出なかった研究もある
念のため。ノルウェーの大学生116人に、タブレットか紙で説明文を読んでもらい、 読みながら考えていることを声に出してもらった実験があります。 結果は、読み方にも理解にも差なし。著者らは 「画面だと浅く読み流すから理解が落ちる」という説明とは合わない、と書いています (Latini & Bråten, 2021)。
まとめると
- 差はある。向きはどのまとめでも同じで、紙が上。 ただし小さい。
- 説明文で出て、物語ではほぼ出ない。 小説を電子書籍で読むのは気にしなくてよさそう。
- 電子書籍リーダーやタブレットでも差は残るが、パソコンよりは小さい。
- いちばん怪しいのは理解力そのものより、「分かったつもり」のズレ。 画面で大事な文章を読むなら、読んだあとに「で、何が書いてあった?」と自分に聞き返すのが、 この一連の研究からいちばん素直に出てくる対処法です。
ただし...
- 効果量が小さい。 メタ分析の推定は g = −0.10〜−0.25 の範囲に収まる。 これは集団平均の差であり、個人が1回の読書で体感できる大きさである保証はない。 「電子書籍だと頭に入らない」という主観的確信の強さと、データ上の差の大きさは釣り合っていない。
- 「時間の使い方」のモデレータで結果が矛盾している。 Delgado et al. (2018) は時間制約下のほうが紙の優位が大きくなると報告するが、 Ackerman & Goldsmith (2011) は固定時間では差がなく、自己ペースで画面が劣るという逆向きの結果を出している。 前者は研究間比較(メタ回帰)、後者は実験内操作という違いはあるが、この不一致は解消されていない。 「自己ペースかどうか」で説明を組み立てるのは、現時点では踏み込みすぎになる。
- 出版年のモデレータの解釈が難しい。 Delgado et al. (2018) は 紙の優位が年を追うごとに拡大していると報告している。「デジタルネイティブが慣れれば消える」 という予測とは逆向きだが、この傾向は測定手法・テキスト長・課題設計の変化や 出版バイアスでも説明でき、因果を読み取れる形にはなっていない。
- 「画面」の中身が統制されていない。 元の実験にはデスクトップ、ノートPC、タブレット、 E-inkが混在し、スクロールかページ送りか、通知が来る環境かどうかもばらばらである。 Salmerón et al. (2023) が携帯端末に絞っても効果は残ったが、g は約半分に縮んだ。 「画面そのもの」の効果と「その画面に付随する環境」の効果を分離した研究は確認できなかった。
- メタ認知較正の証拠は薄い。 Clinton-Lisell (2019) の calibration は k = 11、n = 698 にとどまる。 本ページで最も踏み込んだ解釈(「分かったつもりのズレ」)は、この最も小さいサブセットに乗っている。
- null result が存在する。 Latini & Bråten (2021) は n = 116 のタブレット対紙の実験で 読解にも方略にも差を検出しなかった。ただしこれも単一実験・単一の説明文であり、 検出力不足の可能性を排除できない。「差がない証拠」として読むのも同様に早い。
- 相関研究は因果を示さない。 Altamura et al. (2023) の r = .055 と Salmerón et al. (2022) の NAEP 分析は横断的な関連であり、 「読解が苦手な子ほどデジタルに流れる」という逆向きの説明を排除できない。 前者は学年で符号が反転しており、単一の効果として扱えない。
- Furenes et al. (2021) は幼児(1〜8歳)が対象で、成人の読書にそのまま外挿できない。 また「筋に沿った仕掛けがあれば電子が上回る」という結果は、 比較対象が大人の読み聞かせ付きの紙の本ではない条件を含む点に注意が要る。
- 日本語の読者を対象にした比較を確認できなかった。 ここで挙げたのは主に英語圏・ ヨーロッパ圏の研究で、縦書きや漢字仮名交じり文で同じ差が出るかは分からない。 Støle et al. (2020) はノルウェー語、Latini & Bråten (2021) もノルウェー語圏である。
- 要旨を確認できず、数値を引かなかった文献が2本ある。 Kong et al. (2018) は同時期の3本目のメタ分析、Lauterman & Ackerman (2014) は 画面の不利を訓練で減らせるかを扱った実験だが、いずれも原著未確認のため、 存在と主題のみを挙げ、効果量は本文に使っていない。
- 測っているのは読解成績だけである。 持ち運びやすさ、文字の拡大、読み上げ、 入手までの速さといった利点は、これらの研究の外側にある。 読解の差が小さいことと、総合的にどちらがよいかは別の問いになる。
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参考文献
- Delgado, P., Vargas, C., Ackerman, R., & Salmerón, L. (2018). Don't throw away your printed books: A meta-analysis on the effects of reading media on reading comprehension. Educational Research Review. https://doi.org/10.1016/j.edurev.2018.09.003
- Clinton-Lisell, V. (2019). Reading from paper compared to screens: A systematic review and meta-analysis. Journal of Research in Reading. https://doi.org/10.1111/1467-9817.12269
- Salmerón, L., Altamura, L., Delgado, P., Karagiorgi, A., & Vargas, C. (2023). Reading comprehension on handheld devices versus on paper: A narrative review and meta-analysis of the medium effect and its moderators. Journal of Educational Psychology. https://doi.org/10.1037/edu0000830
- Ackerman, R., & Goldsmith, M. (2011). Metacognitive regulation of text learning: On screen versus on paper. Journal of Experimental Psychology: Applied. https://doi.org/10.1037/a0022086
- Mangen, A., Olivier, G., & Velay, J.-L. (2019). Comparing comprehension of a long text read in print book and on Kindle: Where in the text and when in the story? Frontiers in Psychology. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2019.00038
- Furenes, M. I., Kucirkova, N., & Bus, A. G. (2021). A comparison of children's reading on paper versus screen: A meta-analysis. Review of Educational Research. https://doi.org/10.3102/0034654321998074
- Støle, H., Mangen, A., & Schwippert, K. (2020). Assessing children's reading comprehension on paper and screen: A mode-effect study. Computers & Education. https://doi.org/10.1016/j.compedu.2020.103861
- Altamura, L., Vargas, C., & Salmerón, L. (2023). Do new forms of reading pay off? A meta-analysis on the relationship between leisure digital reading habits and text comprehension. Review of Educational Research. https://doi.org/10.3102/00346543231216463
- Salmerón, L., Vargas, C., Delgado, P., & Baron, N. S. (2022). Relation between digital tool practices in the language arts classroom and reading comprehension scores. Reading and Writing. https://doi.org/10.1007/s11145-022-10295-1
- Latini, N., & Bråten, I. (2021). Strategic text processing across mediums: A verbal protocol study. Reading Research Quarterly. https://doi.org/10.1002/rrq.418
- Kong, Y., Seo, Y. S., & Zhai, L. (2018). Comparison of reading performance on screen and on paper: A meta-analysis. Computers & Education. https://doi.org/10.1016/j.compedu.2018.05.005
- Lauterman, T., & Ackerman, R. (2014). Overcoming screen inferiority in learning and calibration. Computers in Human Behavior. https://doi.org/10.1016/j.chb.2014.02.046