「聞いて覚える」って本当に効率的なの?

勉強 読書外国語記憶確度: 中

一言でいうと...

「聞くだけでは意味がない」は言いすぎです。 ちゃんと耳を傾けて聞けば、同じ内容を読んだときとほぼ同じくらい頭に入る、という結果が多くの実験で出ています。 ただし、何かをしながらの聞き流しは話が別で、気がそれやすく、外国語でも身につくのは「音のなじみ」くらいまで。差をつけているのは「耳か目か」より、受け身のまま流しているかどうかのほうです。

詳しくは...

耳で聞くのと目で読むのは、平均するとほぼ互角

同じ文章を「読む人」と「聞く人」に分けて、内容をどれだけ理解できたかを比べた実験は、子どもから大人まで数多くあります。 その46件、のべ4,687人分をまとめ直した分析では、読むのと聞くのの差は g = 0.07 で、はっきりした差とは言えないという結果でした(Clinton-Lisell, 2022)。 「g」は差の大きさを表す目盛りで、0.2で「小さい」が目安なので、0.07はほとんどゼロです。

1本の実験でも確かめてみます。大人91人を、ノンフィクションの本の序文と1章を「オーディオブックで聞く」「タブレットで読む」「読みながら同時に聞く」の3組に分けたところ、直後のテストでも2週間後のテストでも、3組の成績に差はありませんでした(Rogowsky et al., 2016)。

少なくとも、「耳から入れた情報は頭に残らない」という考えは、研究全体からは支えられていません。

差が出るのは「自分のペースで読み返せる」とき

ただ、まったく同じではありません。先ほどのまとめでは、読むほうが少し有利になる条件が2つ見つかっています(Clinton-Lisell, 2022)。

  • 自分のペースで読めるとき …… 読むほうがわずかに上(g = 0.13)
  • 書かれていないことを推し量る問題(「なぜそうなったか」など) …… 読むほうが上(g = 0.36)。一方、書いてあることそのものを問う問題では差なし(g = −0.01)

読むときは、難しいところで速度を落としたり、前に戻ったりできます。音声は基本的に一定の速さで流れていくので、考えながら追いかけるような内容ほど、読むほうが有利になりやすい、と考えると筋が通ります。 裏返せば、話の筋や事実を追う程度の内容なら、聞くのでも十分ということです。

解説ポッドキャストの実験は、結果が割れている

勉強用のポッドキャストそのものを比べた実験もありますが、こちらはまだ小さな研究が中心で、向きがそろっていません。

  • 医学生61人をくじでポッドキャスト組とブログ記事組に分けた実験では、どちらも点数が伸び、伸び方に統計的な差はありませんでした(Lien et al., 2018)。
  • 医学生と研修医61人が、テーマごとに「座ってポッドキャスト」「ランニングマシンで歩きながらポッドキャスト」「座って教科書」を割り当てられた実験では、ポッドキャストのほうが直後の伸びが大きく、4週間後の残り方も3テーマ中2テーマで教科書と同等でした(Wolpaw et al., 2022)。
  • 反対に、大学の授業で同じ資料を「ポッドキャストで聞く」組と「文章で読む」組に分けた実験では、ポッドキャスト組の小テストの点が低いという結果でした(Daniel & Woody, 2010)。

「ポッドキャストなら必ず劣る」とも「同じ」とも言い切れない、というのが現状です。

引っかかるのは「ながら」と「心のよそ見」

結果を分けているものの候補として浮かぶのが、聞いているときに何をしているかです。

医学生を対象にした調査では、ポッドキャストを聞きながらしていたことの上位は、運転(46%)、家事(26%)、運動(23%)でした(Chin et al., 2017)。 医療職の人たちが実際にどう聞いているかを追った調査でも、多くの人が運転などをしながら聞いていました(Roland et al., 2021)。 先ほどのブログとの比較実験でも、ポッドキャスト組のほうが、食事・家事・運転など複数のことを同時にしながら教材に触れる傾向がありました(Lien et al., 2018)。

さらに、聞くことには「気がそれやすい」という弱点が見えています。同じ人に「声に出して読む」「読み上げを聞く」「黙って読む」の3通りで文章に触れてもらい、途中で「いま何を考えていましたか」と尋ねた実験では、聞いているときがいちばん上の空になりやすく、内容の記憶もいちばん悪く、内容への興味もいちばん低いという結果でした(Varao-Sousa et al., 2013)。

「ながら」の害については、読むときの実験をまとめたものがあります。読みながら別のことをすると理解は下がり(g = −0.28)、特に読む速さを決められていて自分で調整できないときに下がり方が大きくなりました(g = −0.54)。自分のペースで読めるときは、はっきりした低下は出ず、そのかわり読み終えるのに時間がかかりました(Clinton-Lisell, 2021)。 音声は止めない限り勝手に進んでいくので、「速さを決められている」側に近い、と考えられます。これは読む実験からの類推で、聞く場面で直接確かめたものではありませんが、ながら聞きで内容を取りこぼしやすい理由としては筋が通ります。

外国語の「聞き流し」で身につくのは、音のなじみまで

英語などを流しっぱなしにする学び方はどうでしょうか。ここは、中身を追いかけて聞く場合と、BGMのように流しておく場合を分けて見る必要があります。

中身を追いかけて聞く場合、話を楽しむうちに知らない単語を覚えてしまう、ということは実際に起きます。外国語でのこうした「ついでの単語学習」の実験24件をまとめた分析では、覚えられた単語の割合は、聞いた場合で直後15%・後日13%、読んだ場合で直後17%・後日15%と、ほぼ同じくらいでした(Webb et al., 2023)。 ただ、逆に言えば8割以上の単語は覚えられていません。物語を読む・聞くで単語が身につくかを3か月後まで追った実験では、ヒントなしで意味を思い出せた単語は、28語中、読む場合(読むだけ・聞きながら読む)で平均1語、聞くだけの場合はゼロという厳しい結果でした(Brown et al., 2008)。

では、BGMのように流しておく場合はどうか。英語話者の大人70人に、2週間、ふだんの生活をしながら毎日イタリア語か英語のポッドキャストを聞いてもらった実験があります。英語を聞いた人たちと比べて、イタリア語を聞いた人たちは、本物のイタリア語の単語と、それらしいデタラメな単語を見分ける力が伸びていました(Alexander et al., 2023)。 聞き流しで、その言語らしい音の並びにはなじんでくる、ということです。ただしこの実験が測ったのは「単語っぽさ」の見分けで、意味が分かるようになったかは測っていません。

生後9か月の赤ちゃんの実験ですが、中国語の話し手と生身で12回過ごした場合は中国語の音を聞き分ける力が保たれたのに、同じ話し手と教材を録画や録音で見せただけでは効果がなかった、という有名な結果もあります(Kuhl et al., 2003)。音を浴びるだけでは届かない部分がある、という傍証です。

「受け身」をやめると変わる

ここまでをまとめると、問題は「耳で聞くこと」そのものより、ただ流れてくるものを受け取るだけになっていることのほうにありそうです。そして、受け身の学習を崩す方法については、かなり固い研究があります。

学生に文章を学ばせ、「もう一度読み直す」組と「何も見ずに思い出して書き出す」組に分けた実験では、5分後のテストでは読み直し組が上でしたが、2日後と1週間後には、思い出す練習をした組のほうがずっとよく覚えていました。しかも、読み直し組のほうが「覚えられた」という自信は高かったのです(Roediger & Karpicke, 2006)。 この「思い出す練習」の効果は、研究をまとめた分析でも、読み直しを含むほかのどの学び方より有利と報告されていて(Adesope et al., 2017)、心理学の実際の授業で調べた研究だけを集めても d = 0.56 と、はっきりした大きさでした(Schwieren et al., 2017)。

聞き流しがちな教材に、この方法を組み込んだ実験もあります。オンライン講義の途中にこまめに小テストを挟むと、上の空になる時間が減り、メモを取る人が増え、学習成績も上がりました(Szpunar et al., 2013)。こちらは映像の講義ですが、「流れていくものを追うだけ」の状態を崩す、という点では音声にも通じる話です。

まとめると

  • 聞くこと自体は、読むことと比べてほとんど劣りません。 物語や事実を追う内容なら、耳からでも十分入ります。
  • 考え込むような内容や、推し量る力が問われる内容では、自分のペースで読み返せる文字のほうが少し有利です。
  • 運転や家事をしながらの聞き流しは、上の空になりやすく、内容を取りこぼしやすいと考えられます。
  • 外国語の聞き流しで身につくのは、音のなじみまで。 意味のある単語を覚えるには、それだけでは足りなさそうです。
  • 聞いたあとに「で、何て言ってた?」と自分に問いかけて思い出すのが、この一連の研究からいちばん素直に出てくる使い方です。

ただし...

  • 読む・聞くの比較は短い文章の実験が中心。 Clinton-Lisell (2022) のメタ分析は46研究を含むが、多くは数分〜数十分の文章を実験室で読む・聞く課題であり、何十分も続く解説ポッドキャストを日常の中で聞く状況とは隔たりがある。また読み条件の「自己ペース」による有利(g = 0.13, p = .049)は有意水準ぎりぎりで、実験者ペースの読みとの比較(g = −0.32)は有意ではなかった。
  • ポッドキャストを直接扱った研究は小規模で、結果が割れている。 Lien et al. (2018) と Wolpaw et al. (2022) はいずれも医学生・研修医約60人規模で、追跡では脱落もある。Wolpaw et al. (2022) は参加者がポッドキャストを好んでいたことが報告されており、盲検化はできない。Daniel & Woody (2010) は逆の結果を示しており、要旨の範囲では効果量を確認できなかったため数値は挙げていない。
  • 「ながら聞き」の害は間接証拠に頼っている。 Clinton-Lisell (2021) の g = −0.28 / −0.54 は読むときのマルチタスクのメタ分析であり、聞くときに同じ大きさの低下が起きるかは直接示されていない。Wolpaw et al. (2022) ではランニングマシンで歩きながら聞いても成績は落ちておらず、軽い運動程度なら問題にならない可能性もある。運転や家事などの実際の「ながら」で学習成績を測った比較は確認できなかった。
  • 上の空の研究は単一実験。 Varao-Sousa et al. (2013) は参加者内計画の1実験で、記憶は再認テストで測っている。音声のほうが心がさまよいやすいという結論が、文章の種類や読み上げ方を変えても再現するかは分からない。
  • 外国語の結果は対象が限られる。 Webb et al. (2023) の割合は、内容に注意を向けて読む・聞く条件のものであり、BGM的な聞き流しの数字ではない。Alexander et al. (2023) は単語らしさの判断(語形の熟知度)を測った2週間・単一の研究で、意味の習得や会話力は検討していない。Kuhl et al. (2003) は生後9か月の乳児が対象で、大人の学習にはそのまま当てはめられない。
  • 「思い出す練習」の研究の多くは文字の教材。 Roediger & Karpicke (2006) や Adesope et al. (2017) は主に文章や単語リストを使っており、音声教材と組み合わせた検証は少ない。Szpunar et al. (2013) も映像講義である。また、複数の情報を組み合わせて推論する種類の学習では、思い出す練習が効かない、むしろ下げるという報告もある(Mulligan et al., 2023)。どんな内容にも万能というわけではない。
  • 日本語での検証は確認できなかった。 引用した研究は英語圏・欧州が中心である。Clinton-Lisell (2022) は、つづりと発音の対応が規則的な言語のほうが読む・聞くの差が小さい傾向を報告しているが(いずれも有意差なし)、漢字仮名交じりの日本語でどうなるかは分からない。
  • 読むのが苦手な人にとっては、音声のほうが有利なこともある。 ディスレクシア(読み書き障害)のある生徒20人とそうでない生徒50人を調べた研究では、黙読より読み上げ機能を使ったほうが、どちらの群でも上の空が減り、理解が上がったという報告がある(Bonifacci et al., 2022)。本ページの「互角」は平均的な読み手の話で、どちらを使うのがよいかは人によって変わる。Clinton-Lisell (2022) も、教材には音声と文字の両方が必要だと結論づけている。
  • 倍速再生は扱っていない。 再生速度を上げた場合の理解や記憶への影響は、本ページの対象外である。

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ChatGPT Grok Claude

参考文献

  • Clinton-Lisell, V. (2022). Listening ears or reading eyes: A meta-analysis of reading and listening comprehension comparisons. Review of Educational Research, 92(4), 543–582. https://doi.org/10.3102/00346543211060871
  • Rogowsky, B. A., Calhoun, B. M., & Tallal, P. (2016). Does modality matter? The effects of reading, listening, and dual modality on comprehension. SAGE Open, 6(3). https://doi.org/10.1177/2158244016669550
  • Lien, K., Chin, A., Helman, A., & Chan, T. M. (2018). A randomized comparative trial of the knowledge retention and usage conditions in undergraduate medical students using podcasts and blog posts. Cureus, 10(1), e2065. https://doi.org/10.7759/cureus.2065
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  • Daniel, D. B., & Woody, W. D. (2010). They hear, but do not listen: Retention for podcasted material in a classroom context. Teaching of Psychology, 37(3), 199–203. https://doi.org/10.1080/00986283.2010.488542
  • Chin, A., Helman, A., & Chan, T. M. (2017). Podcast use in undergraduate medical education. Cureus, 9(12), e1930. https://doi.org/10.7759/cureus.1930
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