急に大きい音がすると視界が光るのって私だけ?

健康 視力確度: 中

一言でいうと...

それ、ちゃんと筋の通った現象です。 音は耳から入ったあと、脳の「見る部分」まで自動で揺らします。暗い場所ではその部分が敏感になっているので、急な大きい音で光が見えても不思議ではありません。 ただし健康な人のうち何人がこれを経験しているかを数えた研究は見つかりませんでした。

詳しくは...

急な音は、脳の「見る部分」を勝手に動かす

まず土台になる話から。耳と目は別々の感覚ですが、脳の中では思ったより早い段階でつながっています。

ある研究チームが、脳波を使ってこれを確かめました。 参加者の横のほうから、急に「ピッ」と音を鳴らす。すると、音が鳴った側と反対側の後頭部、つまり脳の「見る部分」に反応が出ました。 驚くのは、音だけに集中する課題をしていて、目で見るものが何もないときでも同じ反応が出たことです。4つの実験すべてで確認されています(McDonald et al., 2013)。 著者らは「急で割り込んでくるような音は、反射的に人の視覚の脳を動かす」とまとめています。

同じチームの続きの研究では、この反応が大きいときほど、直後にその場所に出てきた図形を見分けるのがうまくなることも分かりました(Feng et al., 2014)。 つまりこれは誤作動ではなく、「音がした方を見ろ」と目の側に先回りして準備させる、普段から働いている仕組みだと考えられています。

音が見え方そのものを変えてしまう例もあります。 光を1回だけ点滅させて、同時に「ピッピッ」と2回音を鳴らすと、光が2回光ったように見える、という錯覚です。 20年分・100本以上の研究をまとめたレビューによれば、これは耳から来た情報が、視覚の脳の早い段階を書きかえていることで起きると考えられています(Hirst et al., 2020。最初の報告は Shams et al., 2000)。

暗いところでは「見る部分」が敏感になる

次に、「暗い部屋で」という条件です。ここにも手がかりがあります。

ある研究で、参加者を真っ暗な中で最大3時間過ごさせました。 そのあいだ、頭の外から磁気で脳の「見る部分」を軽くつつき、光のチラつきが見え始める強さを測り続けます。 すると、暗くなって45分ほどで、弱い刺激でも光が見えるようになり、それが暗いあいだずっと続きました。明るい場所に戻ると、2時間ほどかけて元に戻っています(Boroojerdi et al., 2000)。

つまり暗い部屋では、脳の「見る部分」が少しの揺さぶりで光を作りやすい状態になっている。そこに、さっきの「急な音が見る部分を動かす」仕組みが重なるわけです。

実際、この組み合わせを直接試したとみられる研究もあります。 共感覚を持たない人にしばらく目隠しをしてもらうと、音で光のようなものが見えやすくなる、という題の研究です(Nair & Brang, 2019)。 2025年にも同じ方向の研究が、学術誌に載る前の段階で公開されています(Ekimova & Clifford, 2025)。 ただし、この2本は中身の要約まで確認できなかったので、何割の人に見えたかといった数字はここでは書けません。

「驚き」がスイッチになっている可能性

もうひとつの手がかりは、病院で報告されてきた例です。

目から脳へつながる神経(視神経)が傷ついた人の中に、音で光が見えると訴える人がいます。

  • 9人の患者の報告では、見えたものは白い光がパッと光るだけのものから、万華鏡のような模様までさまざまでした。きっかけは普段の生活の音で、音でびくっと驚いたときに起きていたと書かれています(Jacobs et al., 1981)。
  • 3人の報告では、光が見えたのは暗いか薄暗い部屋で休んでいるときだけでした(Lessell & Cohen, 1979)。
  • 5人の報告では、急な、予期しない音で明るい光が見え、5人とも眠りを妨げられるほどでした(Page et al., 1982)。

「暗い」「急な音」「驚き」。条件は、依頼の体験とよく似ています。 これらの報告は、視覚の入り口からの信号が減った脳が、音に反応しやすくなっていると説明しています。 暗い部屋というのは、健康な目でも入ってくる光が大きく減った状態です。 そう考えると、病気の人の脳で起きていることのずっと軽い版が、暗闇で誰にでも起こりうる、という筋書きは無理のない推測です(ただし、健康な人で確かめた研究はまだ見つけていません)。

共感覚なの?

「共感覚」と呼んでいいかどうかは、言葉の定義しだいです。

生まれつきの共感覚は、よく知られているのは文字や数字に色がついて見えるようなタイプです。 思われていたより珍しくないことが分かってきていて、偏りのない集め方で調べた研究では、それまでの想定の88倍よく見られ、文字に色が見えるタイプだけでも約1%いました(Simner et al., 2006)。

一方、今回のように後から、ある条件のときにだけ、音で光が見えるものは、専門家のあいだで「獲得性・誘発性の聴覚-視覚共感覚」と区別して呼ばれています。 レビューによれば、これは視覚の入り口が弱ったときや、目隠しをしたときなどに報告されています(Afra et al., 2009)。

なので、「共感覚みたいなもの」という直感は、方向としては当たっています。 ただ、生まれつきの共感覚というより、暗さと驚きがそろったときにだけ顔を出す、耳と目のつながりと考えたほうが近そうです。

似ているけれど別もの ── 頭内爆発音症候群

「大きな音」と「光」がセットになる体験として、もうひとつ知られているのが頭内爆発音症候群です。 眠りに落ちるときや目覚めるときに、実際には鳴っていない爆発音が頭の中で聞こえるもので、音と一緒に光がパッと見えることがよくあります(Frese et al., 2014)。 これも意外とありふれていて、大学生211人の聞き取りでは18%が経験していました(Sharpless, 2015)。 日本の自治体職員1,843人を調べた研究では、診断の基準を満たしたのは1.25%でした(Tsovoosed et al., 2025)。

ただしこれは音そのものが頭の中で作られるので、実際に外で大きな音が鳴って光る今回の体験とは別ものです。 起きているときに、現実の音で光が見えるなら、こちらには当てはまりません。

まとめると

  • 急な音は、目を通らずに脳の「見る部分」を動かす。 これは健康な人で確かめられている。
  • 暗い場所では、脳の「見る部分」が光を作りやすくなる。 これも健康な人で確かめられている。
  • 視神経の病気の人では、暗い部屋・急な音・驚きの組み合わせで光が見えると報告されている。
  • この3つをつなげると、依頼の体験はかなり自然に説明がつく。
  • ただし「健康な人のうち何人が経験しているか」を数えた研究は見つからなかった。 「私だけ?」に数字で答えることはできない。

ただし...

  • 健康な人を対象に、この体験の頻度を測った研究は、本サーベイでは確認できなかった。 本ページの結論は、(1) 健常者で示された音による視覚野の賦活(McDonald et al., 2013; Feng et al., 2014)、(2) 短時間の暗順応による視覚野興奮性の上昇(Boroojerdi et al., 2000)、(3) 視神経疾患での音誘発性光視症の症例報告(Lessell & Cohen, 1979; Jacobs et al., 1981; Page et al., 1982)をつなげた推論である。この組み合わせ自体が、健常者で検証されたわけではない。
  • Nair & Brang (2019) と Ekimova & Clifford (2025) は要旨を確認できなかった。 研究の存在と題名が示す主題(短時間の視覚遮断で非共感覚者の音誘発性視知覚が起きやすくなる)のみを引用しており、効果量、見えた人の割合、暗さの条件などは原著未確認。後者は査読前のプレプリントである。
  • McDonald et al. (2013) と Feng et al. (2014) が測ったのは脳波上の反応(ACOP)で、「光が見えた」という主観報告ではない。 視覚野が音で動くことと、それが閃光として意識に上ることの間には距離がある。また、マウスの一次視覚野では、音で生じるように見えた活動の多くが音に伴う小さな体の動き(驚き反応に近いもの)で予測できたという報告がある(Bimbard et al., 2023)。ヒトの ACOP にそのまま当てはまるわけではないが、「音→視覚野」の経路が、驚愕や覚醒状態を介した間接的なものである可能性は残る。
  • Boroojerdi et al. (2000) は経頭蓋磁気刺激で誘発される閃光の閾値を測った研究で、音は使っていない。 暗順応で視覚野が興奮しやすくなることは示されているが、それが音による閃光に効くかは直接確かめられていない。また暗順応の効果が出始めたのは約45分後であり、部屋を暗くしてすぐの時点で同じことが言えるかは分からない。
  • 症例報告は、いずれも視神経・視交叉などに病変のある患者で、人数も3〜9人と少ない。 健常者に外挿できる根拠としては弱く、類似性の指摘にとどまる。
  • 検討できていない代替説明がある。 驚いたときには瞬目が起きる(驚愕反応の標準的な指標は瞬目の筋電図である; Blumenthal et al., 2005)。瞬目や眼瞼の強い収縮、眼球の動きが、網膜や視神経への機械的な刺激として閃光を生んでいる可能性を、本サーベイでは確かめられていない。Page et al. (1982) では眼球運動だけでは症状は再現されなかったが、これは患者での観察である。
  • 頭内爆発音症候群の有病率は、調べ方で大きく変わる。 大学生の面接調査で18%(Sharpless, 2015)、女子大学生と国際的なオンライン標本では生涯経験が37.2%と29.6%(Denis et al., 2018)、日本の職域調査で診断基準を満たすのは1.25%(Tsovoosed et al., 2025)。自己申告の定義や対象集団が異なるため、比較には注意が要る。閃光を伴う割合の数値は、本サーベイでは要旨から取得できなかった。
  • Simner et al. (2006) の有病率は生まれつきの共感覚についてのもので、音で光が見えるタイプの頻度は要旨からは取得できなかった。
  • 受診の目安について。 音で光が見える症状は、視神経炎や視神経の圧迫など、治療が必要な病気で報告されている(Lessell & Cohen, 1979; Jacobs et al., 1981; Page et al., 1982)。これらの報告では、光は片方の目の、見えにくくなった部分に出ていた。したがって、片目だけで起きる、最近になって急に始まった、視力の低下や視野の欠けを伴う、といった場合は眼科で相談するのがよい。逆に、両目で起き、ずっと前から変わらず、ほかの症状がないなら、上に書いた範囲では病気を疑う理由は見当たらない。ただし本ページは診断の代わりにはならない。
  • Hirst et al. (2020) はレビュー論文である。 音による閃光錯覚の神経基盤についての記述は、多数の研究の総括として引いている。錯覚そのもの(1回の光と2回の音で2回光って見える)は、光が実際に出ている条件での現象であり、光がない暗闇で閃光が生じることとは別の現象である。

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参考文献

  • McDonald, J. J., Störmer, V. S., Martinez, A., Feng, W., & Hillyard, S. A. (2013). Salient sounds activate human visual cortex automatically. Journal of Neuroscience. https://doi.org/10.1523/jneurosci.5902-12.2013
  • Feng, W., Störmer, V. S., Martinez, A., McDonald, J. J., & Hillyard, S. A. (2014). Sounds activate visual cortex and improve visual discrimination. Journal of Neuroscience. https://doi.org/10.1523/jneurosci.4869-13.2014
  • Shams, L., Kamitani, Y., & Shimojo, S. (2000). What you see is what you hear. Nature. https://doi.org/10.1038/35048669
  • Hirst, R. J., McGovern, D. P., Setti, A., Shams, L., & Newell, F. N. (2020). What you see is what you hear: Twenty years of research using the Sound-Induced Flash Illusion. Neuroscience & Biobehavioral Reviews. https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2020.09.006
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  • Ekimova, P., & Clifford, C. (2025). Would you like to see sounds? Inducing audio-visual synesthesia-like percepts in non-synesthetes after short term visual deprivation. SSRN Electronic Journal(プレプリント). https://doi.org/10.2139/ssrn.5967221
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