月のバイト代、実はいつも盛って答えてます

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一言でいうと...

それ、よくあることみたいです。 答えた収入と記録に残った収入を突き合わせた研究がいくつもあって、 ズレ方には「型」があります。稼ぎが少ない側ほど多めに言う、という報告です。 ただし「人に聞かれてバイト代を盛る人がどれくらいいるか」を数えた研究は見つかりませんでした。

詳しくは...

「盛ったかどうか」は、どうやって調べるのか

先に正直に書いておくと、「友だちに聞かれて何割の人が収入を盛るか」を数えた研究は、 今回の文献検索では見つかりませんでした。

そのかわり、ほとんど同じことを測れる調べ方があります。

やり方はこうです。アンケートで「去年いくら稼ぎましたか」と答えてもらう。 そのあと、同じ人の本当の金額を、行政の記録から引っ張ってくる。 給与から天引きされる税や社会保険の記録には、本物の金額が残っているからです。 2つを並べれば、その人がいくら盛ったか(あるいは削ったか)が1円単位で分かります。

この手のデータは各国で作られていて、答え合わせの結果が積み上がっています。

ズレは「たまたま」ではなく、向きが決まっている

いちばん有名な答え合わせは、アメリカの労働統計の調査と、 社会保障の給与記録を突き合わせたものです。

分かったのは、誤差が本当の収入と逆向きに動くということでした。 つまり、本当は少ない人ほど多めに答え、本当は多い人ほど少なめに答える。 答えの散らばりのうち「本物の差」が占める割合は、男性で0.82、女性で0.92でした (残りが誤差、ということです。Bound & Krueger, 1991)。

ここからがこの記事の肝です。 同じ種類のデータを、より細かい方法でもう一度見直した研究が、 この「逆向き」を作っているのが何なのかを特定しました。

答えは、低いほうの人たちの過大申告でした (Bollinger, 1998)。 高い人が控えめに言うのも多少あるけれど、ズレの主役は少なく稼いでいる人が多めに言うほうだった、と。

同じ形は、ヨーロッパでも出ています。 オーストリアの調査(2008〜2011年)では、同じ世帯について アンケートの答えと登録簿の金額の両方が手に入ります。 そこでも、低いほうは多めに、高いほうは少なめにという同じ型が確認されました (Angel et al., 2017)。

バイト代は、たいてい収入の分布の低いほうにあります。 つまり質問者は、いちばん盛りやすい位置に立っていることになります。

それは「見栄」なのか

ズレがあるのは分かった。では、それは恥ずかしさや見栄のせいなのか。

さきほどのオーストリアのデータを使って、 誤差の原因を4つ(人の目を気にする度合い、回答者の属性、調査の設計、慣れ)に分解した研究があります。 結果、賃金と年金の答えのズレを説明するいちばん大きな要因は「人の目を気にする度合い」でした (Angel et al., 2019)。

ドイツでは、大規模な調査の回答を、雇用庁が持っている給与記録と突き合わせた研究があります。 こちらの結果は、細かく読むと面白いものでした。

  • 平均の誤申告は、中央値の収入の6%くらい。思ったより小さい
  • 女性と、学歴の高い人ほど正確に答えた
  • 稼ぎが多い人ほど、誤差が大きかった
  • 性格でいうと、協調的な人ほど正確、外向的な人ほど不正確
  • 女性は、どの収入層でも「多めに言う」ほうに寄りにくかった
  • 一方で、面接した人の特徴(性別や年齢など)の影響は、ほぼ無かった

Antoni et al., 2019)。

収入は、調査の世界では昔から「答えにくい質問」の代表格として扱われてきました。 この手の質問についてのまとめによると、 答えにくい質問での誤申告はかなりよく起きるが、それは人柄ではなく状況で決まる。 そして、それは記憶違いではなく、 相手の前で恥をかかないように、答えを意識的に手直しする過程だと整理されています (Tourangeau & Yan, 2007)。

誰が聞くかで、答えが変わる

「状況で決まる」の部分を、きれいに示した実験があります。

大学を出たばかりの人たちを、3つの答え方にくじ引きで割り振りました。 聞く中身は同じで、大学の記録で答え合わせができるようにしてあります。

  • 人が電話をかけて聞く
  • 自動音声が聞く(機械が質問を読み上げ、本人が番号を押す)
  • Webの画面に自分で打ち込む

結果、Webがいちばん正直で、いちばん正確でした。自動音声はその中間 (Kreuter et al., 2008)。

聞いているのが人間かどうかだけで、同じ人の答えが動く。 だとすると、目の前にいるのが調査員ではなく友だちなら、 答えがまた別の方向に動いても不思議ではありません。

ちなみに、「誰にも紐づかない形で聞けば本当のことを言うのでは」という発想から、 質問の仕方そのものを工夫する手法も研究されています。 89本の論文・124の標本・303の推定値を集め直したまとめによれば、 この手法はふつうに直接聞くよりは妥当な答えを引き出すものの、 結果のばらつきが大きく、いつもうまくいくとは限らないという評価でした (Ehler et al., 2021)。

「盛ってる」のではなく「知らない」だけ、という線

ここで、もっと身も蓋もない説明も置いておきます。

そもそも人は、自分の収入を正確に覚えていません。 だから丸めた数字で答える。「だいたい8万」「10万くらい」というあれです。 収入データを扱う研究では、 回答者の多くが数字を丸めていることが繰り返し報告されています (Drechsler & Kiesl, 2015)。

しかも、丸めの原因は実験で確かめられています。 答えるべき数字についてどれくらい確信が持てないかを実験的に操作したところ、 自信がないほど丸めが大きくなりましたRuud et al., 2013)。

「盛った」と「切り上げた」は、答えを見ただけでは区別がつきません。 見栄を張っていなくても、こうしてズレは生まれます。 ただし丸めが上と下のどちらに寄るのかを測った研究には、本サーベイでは当たれませんでした。

逆に「少なく言う」場面もある

向きが逆になる例も並べておきます。

  • 自営業の人は、税務署だけでなく家計調査に対しても収入を少なく答える。 支出のパターンから本当の収入を逆算した研究によると、その幅は平均で約25%でした (Hurst et al., 2014)。
  • ドイツの大規模パネル調査を社会保険記録と突き合わせた分析では、 回答者は平均で7.3%、自分の賃金を少なく答えていました (Caliendo et al., 2024。まだ査読前の論文)。

つまり、「盛る」は人間の性質ではなく、置かれた場面の性質だということです。 税務署が聞けば下に、友だちが聞けば上に。同じ人の口から違う数字が出ます。

まとめると

  • 答えた収入と本当の収入は、ふつうにズレる。 これは複数の国の答え合わせで確かめられています。
  • ズレ方には型がある。低い側は多めに、高い側は少なめに。 そしてこの型を作っている主役は、低い側の過大申告だという分析があります。
  • バイト代は分布の低いほうにある。 型のとおりなら、盛る側に立っているのは自然です。
  • 見栄の成分は実際に測られている。 人の目を気にする度合いが、賃金の誤申告の最大の説明要因でした。
  • ただしズレの大きさ自体は、平均すれば数%程度という報告もあり、 「桁が変わるような嘘」が普通だという話ではありません。
  • そして見栄だけでなく、単に覚えていないから丸めている線も同じくらい有力です。
  • ここに書いたのは全部アンケートの話で、会話の話ではありません。 友だちに聞かれたときにどうなるかを直接測った研究は、本サーベイでは見つかりませんでした。

ただし...

  • 本サーベイでは、会話や友人間での収入の誇張を直接測った研究を確認できなかった。 本ページの結論は、匿名(または半匿名)の調査回答と行政記録の突合という 別の場面で得られた知見を、日常会話に外挿したものである。 調査票と友人との会話では、誤申告の動機も、露見するリスクも、聞き手との関係も異なる。 Kreuter et al. (2008) は「聞き手が人間かどうかで答えが動く」ことを示すが、 聞き手が友人である場合に上方向に動くかどうかは検証されていない。
  • 「低所得者が過大申告する」の直接の根拠は限られている。 Bound & Krueger (1991) と Angel et al. (2017) が示しているのは 誤差と真値の負の相関(mean-reverting error)であり、その内訳ではない。 「負の相関を作っているのは低所得者の過大申告である」と明示しているのは Bollinger (1998) で、1978年3月の米国 CPS と社会保障記録の突合という単一の古いデータである。 同論文は同時に median response errors は収入と関連しないとも報告しており、 これは「低所得層の一部が大きく上振れして平均を引っ張っている」可能性を示唆する。 低所得層の大半が日常的に盛っている、という意味には読めない。
  • 誤差を全部「回答者の嘘」に帰することはできない。 照合先の行政記録も完全ではなく、突合の失敗や対象期間のずれも「誤差」として観測される。 Jenkins & Rios-Avila (2023) は英国のデータで4種類の測定誤差を分けてモデル化しており (10.1093/jrsssa/qnac003)、 誤差が単一の現象ではないこと、個人差が大きいことを報告している。
  • 現金払いや短期の仕事は、そもそも記録側に残りにくい。 本ページで引いた突合研究は、いずれも雇用主が公的記録に届け出た給与を「正解」としている。 アルバイトのうち記録に乗らない部分は、この設計では検証できない。 「バイト代」という具体的な対象に絞った突合研究は、本サーベイでは見つからなかった。
  • 社会的望ましさの効き方は、研究によって食い違う。 Angel et al. (2019) はオーストリアのデータで社会的望ましさが賃金誤申告の主要因だとする一方、 Antoni et al. (2019) はドイツのデータで面接員の特性の影響は無視できると報告している。 同じ「人の目」でも、どの側面が効くかは一致していない。
  • 社会的望ましさを測る尺度自体が安定していない。 この分野で最も使われる Marlowe-Crowne 尺度と BIDR について、 確認的因子分析で1因子モデルも2因子モデルも十分に支持されなかったという報告がある (Leite & Beretvas, 2004)。 「見栄っ張り度」を数値で測ったという主張は、割り引いて読む必要がある。
  • 方向が逆の証拠がある。 Caliendo et al. (2024) はドイツ SOEP で平均7.3%の過少申告、 Hurst et al. (2014) は自営業者で約25%の過少申告を報告している。 平均としては「少なく言う」が優勢な集団もある。本ページの主張は 「誰もが盛る」ではなく「分布の低い側では上振れが目立つ」に留まる。 なお Caliendo et al. (2024) は査読を経ていないワーキングペーパーである。 Hurst et al. (2014) は突合ではなく支出から真の収入を逆算する間接推定であり、 推定に置いた仮定(賃金労働者と自営業者で支出と収入の関係が同じ)に依存する。
  • 丸めと誇張は、このデータでは分離できない。 Drechsler & Kiesl (2015) と Ruud et al. (2013) が示すのは丸めの存在と原因であり、 丸めの向き(上に丸めるか下に丸めるか)を本サーベイでは確認できていない。 したがって、突合で観測された上振れのうち どれだけが意図的な誇張で、どれだけが記憶の曖昧さによる切り上げなのかは分けられない。 Antoni et al. (2019) が「稼ぎが多い人ほど誤差が大きい」と報告しているのも、 見栄ではなく金額が大きく複雑な人ほど正確に覚えていないことの反映である可能性がある。
  • 項目数カウント法(item count technique)のメタ分析は異質性が大きい。 Ehler et al. (2021) は89本・124標本・303推定値からプールした効果が 直接質問より妥当な方向に出たと報告する一方、 研究間のばらつきが大きく、次の研究で同じように働く保証はないと明記している。
  • 対象集団が偏っている。 ここで引いた突合研究は米国・オーストリア・ドイツ・英国のものである。 日本で収入の自己申告を行政記録と突き合わせた研究は、本サーベイでは見つからなかった。 学生アルバイトに限定した検証も同様に見つかっていない。 賃金の話をどれくらい口にするか、何を恥ずかしいと感じるかは文化差が大きい領域なので、 そのまま日本に持ち込めるとは限らない。

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ChatGPT Grok Claude

参考文献

  • Bound, J., & Krueger, A. B. (1991). The extent of measurement error in longitudinal earnings data: Do two wrongs make a right? Journal of Labor Economics. https://doi.org/10.1086/298256
  • Bollinger, C. R. (1998). Measurement error in the Current Population Survey: A nonparametric look. Journal of Labor Economics. https://doi.org/10.1086/209899
  • Angel, S., Heuberger, R., & Lamei, N. (2017). Differences between household income from surveys and registers and how these affect the poverty headcount: Evidence from the Austrian SILC. Social Indicators Research. https://doi.org/10.1007/s11205-017-1672-7
  • Angel, S., Disslbacher, F., Humer, S., & Schnetzer, M. (2019). What did you really earn last year? Explaining measurement error in survey income data. Journal of the Royal Statistical Society: Series A. https://doi.org/10.1111/rssa.12463
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  • Tourangeau, R., & Yan, T. (2007). Sensitive questions in surveys. Psychological Bulletin. https://doi.org/10.1037/0033-2909.133.5.859
  • Kreuter, F., Presser, S., & Tourangeau, R. (2008). Social desirability bias in CATI, IVR, and Web surveys: The effects of mode and question sensitivity. Public Opinion Quarterly. https://doi.org/10.1093/poq/nfn063
  • Ehler, I., Wolter, F., & Junkermann, J. (2021). Sensitive questions in surveys: A comprehensive meta-analysis of experimental survey studies on the item count technique. Public Opinion Quarterly. https://doi.org/10.1093/poq/nfab002
  • Drechsler, J., & Kiesl, H. (2015). Beat the heap: An imputation strategy for valid inferences from rounded income data. Journal of Survey Statistics and Methodology. https://doi.org/10.1093/jssam/smv032
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  • Hurst, E., Li, G., & Pugsley, B. (2014). Are household surveys like tax forms? Evidence from income underreporting of the self-employed. The Review of Economics and Statistics. https://doi.org/10.1162/rest_a_00363
  • Caliendo, M., Huber, K., Isphording, I. E., & Wegmann, J. (2024). On the extent, correlates, and consequences of reporting bias in survey wages. Working paper. https://doi.org/10.25932/publishup-70765
  • Jenkins, S. P., & Rios-Avila, F. (2023). Reconciling reports: Modelling employment earnings and measurement errors using linked survey and administrative data. Journal of the Royal Statistical Society: Series A. https://doi.org/10.1093/jrsssa/qnac003
  • Leite, W. L., & Beretvas, S. N. (2004). Validation of scores on the Marlowe-Crowne Social Desirability Scale and the Balanced Inventory of Desirable Responding. Educational and Psychological Measurement. https://doi.org/10.1177/0013164404267285