電球って高速で点滅してない?

健康 視力脳照明確度: 中〜高

一言でいうと...

はい、多くの照明は、1秒に100回か120回、明るさが揺れています。 じっと見ているぶんには見えない速さですが、目をサッと動かしたときや、動くものを見たときには、明滅が「光の点の列」や「コマ送り」として見えることがあり、その見えやすさには人による差があります。 ただし、見えないちらつきが体にどこまで影響するかは、まだ研究が少ない段階です。

詳しくは...

そもそも、なぜ明るさが揺れるのか

家のコンセントに来ている電気は、プラスとマイナスが1秒に何十回も入れ替わる「交流」です。日本では東日本が1秒に50回、西日本が60回。 電気の強さは1往復のあいだに2回ピークを迎えるので、それをそのまま光に変える照明は、1秒に100回(東日本)か120回(西日本)、明るくなったり暗くなったりします。

どのくらい揺れるかは、照明の種類で大きく違います。

  • 昔ながらの蛍光灯は、揺れがかなり大きい部類です。オフィスの蛍光灯を調べた研究では、100回/秒の揺れで明るさが45%前後も上下していました(Wilkins et al., 1989)。
  • 白熱電球は、フィラメントが熱で光っていて一瞬では冷めきらないので、揺れは比較的おだやかです。
  • LEDは、製品によってまったく揺れないものから、大きく揺れるものまでばらばらです。電気を光に変える部品(ドライバー)の作りしだいで、明るさを変える調光のために、わざと高速でオン・オフを繰り返しているものもあります(Miller et al., 2022、Lehman & Wilkins, 2014)。

なので「電球って点滅してない?」への答えは、「しているものが多い。ただし中身による」になります。

じっと見ていると、なぜ見えないのか

人の目には、明滅が速くなると一つながりの光に見えてしまう境目があります。これを「臨界融合周波数」と呼びます。 一様な光で測ると、この境目は1秒に50〜90回くらいとされてきました(Davis et al., 2015)。 100回・120回/秒はそれより速いので、電球をじっと見ても、ふつうはちらつきとしては見えません。

目を動かすと、見えることがある

ところが、条件を変えると話が変わります。

暗い部屋で光るLEDの前を、目をサッと横に動かす。すると、1つのはずの光が、点々と並んだ列に見えることがあります。 これは「ファントムアレイ(幻の列)」と呼ばれる現象です。目が動いているあいだに光が点いたり消えたりすると、点いた瞬間ごとに網膜の別の場所に光が当たるので、点滅が「横に並んだ点」に変換されて見えるのです。

暗い部屋での実験では、11人の参加者がこの方法で、点滅と点きっぱなしの光を、平均で1秒に約2,000回の点滅まで見分けられました。120回/秒なら、明るさの揺れが10%を超えたあたりから見えていました(Roberts & Wilkins, 2012)。 夜道で前の車のLEDテールランプを見たあと目をそらすと、光の列が残って見えることがありますが、これも同じ仕組みで、テールランプの多くは1秒に200〜500回の点滅で明るさを調整していると説明されています(Lehman & Wilkins, 2014)。

もう一つは、照明の下で動くものを見たときです。点滅する光の下で手をさっと振ると、手の残像がコマ送りのように何本も並んで見えることがあります。これを「ストロボ効果」と呼びます。 74種類の点滅パターンを試した実験では、ストロボ効果は1秒に90〜120回の点滅でいちばん見えやすかった一方、ファントムアレイは500〜1,000回でいちばん見えやすく、敏感な参加者には6,000回でも見えたと報告されています(Miller et al., 2023)。 100回・120回という家庭の照明の揺れは、ちょうどストロボ効果が出やすい速さにあたるわけです。

「人によって見える」は本当か

ここが依頼の核心です。調べた範囲では、人による差はあると言ってよさそうです。

  • ちらつきが見える境目そのものに個人差がある。 健康な人を同じ方法で何度も測った研究では、人によって最大でおよそ30回/秒の差がありました。しかもその差の約8割は「その人の特徴」で、測るたびにブレる分よりずっと大きかった(Haarlem et al., 2024)。
  • 若い人のほうが見えやすい。 1974年にちらつきの研究をまとめた論文は、ちらつきへの感度は20歳前後がピークで、人によるばらつきが大きいと書いています(Brundrett, 1974)。ブラジルの健康な95人を測った研究でも、年齢が上がるほど境目が下がっていました(Bernardi et al., 2007)。ファントムアレイの実験でも、若い参加者のほうが見える条件が多かった(Miller et al., 2024)。
  • 片頭痛のある人は見えやすい。 同じ実験では、55人のうち片頭痛のある25人のほうが、ファントムアレイの見えやすさが平均して高く、特に速い点滅で差が出ていました(Miller et al., 2024)。
  • ただ、「見える」の多くは、目や物が動いたときの話。 100回/秒の揺れを、じっと見たまま直接ちらつきとして感じる人は多くないはずです。1974年の論文は、オフィスでちらつきが見えると答えた人が少なくなかったとしつつ、ふだん見えているのは古くなった蛍光灯に出てくる50回/秒の成分だと述べています(Brundrett, 1974)。

見えなくても、目と脳は拾っている

「見えない」と「届いていない」は別の話です。

目に電極を当てて網膜の反応を測った研究では、蛍光灯を直接見たとき、1秒に145回の明滅にまで、網膜が同じリズムで反応していました。本人にはちらつきは見えていない速さです(Berman et al., 1991)。 また、見えない速さのちらつきをしばらく見続けると、そのあとちらつきに気づきにくくなる(目や脳が「慣れて」しまう)ことも示されています(Shady et al., 2004)。 つまり、意識に上らない明滅も、視覚の途中までは確かに届いているのです。

頭痛や目の疲れとの関係

では、それが体に影響するのか。いちばんよく引かれるのが、オフィスで行われた実験です。

蛍光灯を、明るさが100回/秒で大きく揺れる従来型と、揺れを7%未満に抑えた高周波型で入れ替え、働いている人にも調べる人にもどちらか知らせないまま比べました。 すると、高周波型のときは、頭痛と目の疲れの頻度が平均して半分以下になりました(Wilkins et al., 1989)。

ほかにも、

  • 学生48人の実験で、高周波型の蛍光灯の下のほうが、細かい形を見分ける課題の成績がよかった。ただし、目の快適さの自己評価には差がなかった(Veitch & McColl, 1995)。
  • 片頭痛のある人は、ファントムアレイの実験のあと4時間のうちに41%が頭痛を報告し、片頭痛のない人の8%より多かった(Miller et al., 2024)。
  • 片頭痛の人はちらつく光を発作のきっかけとしてよく挙げるが、それをきちんと確かめた研究は少ない、というレビューもあります(Friedman & Dye, 2009)。

こうした懸念から、LEDの点滅の速さや深さについては、健康への影響を減らすための推奨基準(IEEE 1789)も作られています(Wilkins et al., 2010)。

まとめると

  • 家庭の照明の多くは、1秒に100回(東日本)か120回(西日本)明るさが揺れている。 揺れの大きさは照明の種類と製品しだいで、LEDでも揺れないものはある。
  • じっと見ているとふつうは見えない。 見える境目は50〜90回/秒くらいだから。
  • 目を動かしたり、動くものを見たりすると見えることがある。 ファントムアレイやストロボ効果として、ずっと速い点滅でも見える。
  • 見えやすさには個人差がある。 若い人、片頭痛のある人、感覚が敏感な人で見えやすい傾向が報告されている。
  • 見えなくても網膜は反応している。 揺れの大きい蛍光灯を揺れの小さいものに替えると頭痛や目の疲れが減った、という実験もある。ただし研究の数はまだ多くない。

ただし...

  • 「電球が揺れているか」は製品に強く依存する。 本ページの「100/120回/秒」は電源由来の揺れの一般論で、実際の変調の深さは光源の方式(白熱・蛍光・LED)、ドライバーや安定器の設計、調光の方式で大きく異なる。白熱電球の揺れが比較的小さいことは熱慣性による一般的な説明で、変調度の数値は本サーベイでは要旨から取得していない。LEDの変調についてもレビュー(Miller et al., 2022)と解説記事(Lehman & Wilkins, 2014)の記述によっており、日本の市販製品を測定した研究は確認できていない。
  • 臨界融合周波数の「50〜90Hz」は、測定条件(輝度、視野の大きさ、網膜上の位置、刺激の形)で変わる。 引用した範囲は Davis et al. (2015) の要旨にある既往研究のまとめであり、単一の値ではない。同論文は、高い空間周波数の縁を含むディスプレイでは500Hz超のアーチファクトが知覚されると報告しているが、これは画面の表示方式の話で、一様な照明にそのまま当てはまるわけではない。
  • ファントムアレイの実験は、暗い部屋や黒い背景に小さな光源を置いて、目を大きく動かさせる条件で行われている(Roberts & Wilkins, 2012 は1 lux未満の部屋で20〜40°のサッカード、Miller et al., 2024 は黒い背景の前のLED)。明るい部屋で天井照明を見る日常の状況では、見えやすさはこれより下がると考えられる。Roberts & Wilkins (2012) の参加者は11人である。
  • 個人差の研究には留保がある。 Haarlem et al. (2024) は特定の年齢範囲に絞った健常者での測定で、年齢差は扱っていない。また、最大差約30Hz・95%予測区間21Hzは、その研究の装置と手続きでの値である。Bernardi et al. (2007) はフリッカー視野計による測定で、照明のちらつきの見えやすさを直接測ったものではない。Brundrett (1974) はレビューで、「20歳前後がピーク」などの記述の元になった原著の効果量は確認していない。
  • Miller et al. (2024) の片頭痛群の結果は、参加者55人の実験室研究である。 実験後の頭痛(41% vs 8%)は自己申告で、参加者は自分の群を知っており、盲検化はされていない。期待や不安が報告に影響した可能性を排除できない。一方で、日常生活でファントムアレイを見る頻度そのものは、片頭痛群で統計的に有意には多くなかったと要旨にある。
  • Miller et al. (2023) の「敏感な参加者」は Leiden Visual Sensitivity Scale という質問紙で分けたもので、医学的な診断ではない。 Veitch & Martinsons (2020) は、パターングレア感受性の高低でストロボ効果の検出成績に差はなく、不快感の評価だけが高群で強かったと報告しており(Veitch & Martinsons, 2020)、「敏感な人ほど見える」と「敏感な人ほど気になる」は分けて考える必要がある。
  • Wilkins et al. (1989) は二重盲検のクロスオーバー試験だが、対象は電源周波数50Hz(照明の揺れが100Hz)の地域の特定のオフィスで、比較したのは従来型と高周波型の蛍光灯である。 LED照明で同じ規模の効果が出るかは確認されていない。また、頭痛は建物の階が高い(自然光が多い)ほど少ない傾向もあり、照明以外の要因も絡んでいる。信頼区間は要旨からは取得できなかった。
  • Veitch & McColl (1995) の参加者は18〜24歳の大学生48人で、成績の差は出たが目の快適さには差がなかった。 健康影響の根拠としては間接的である。
  • Berman et al. (1991) と Shady et al. (2004) は、網膜や視覚系が見えない明滅に反応することを示したが、それが症状につながることを示したものではない。 反応があることと、害があることは別である。Berman et al. の145Hzの反応は、直接見た蛍光灯という比較的強い刺激での結果である。
  • 片頭痛と光のちらつきの関係は、患者の自己申告に多くを頼っている(Friedman & Dye, 2009)。ちらつく光が発作を「起こす」という因果を、統制した条件で確かめた研究は多くない。
  • IEEE 1789 は推奨実践(recommended practice)で、法的な規制ではない。 本ページでは規格の中身(周波数ごとの変調の上限など)までは確認しておらず、規格の成り立ちを述べた Wilkins et al. (2010) の要旨の範囲で触れている。
  • 光過敏性てんかんは、本ページでは扱っていない。 本サーベイでは、家庭の照明の揺れとの関係を調べた研究を確認していない。点滅する光で気分が悪くなる、意識が遠のくといったことがある場合は、照明の問題とは分けて医療機関で相談するのがよい。

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参考文献

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