1日1万歩って根拠ある?
一言でいうと...
1万歩という数字そのものに、特別な根拠はありません。 歩数が多い人ほど亡くなる人が少ない、という関係は多くの研究で見られます。差の大きい部分は1万歩より手前にあり、1万歩は「ここを超えないと意味がない」線ではありません。
詳しくは...
1万歩は、実験で決まった数字ではなかった
「健康のためには1日1万歩」は、スマホや腕時計の初期設定にもよく入っている数字です。この数字を必要だと信じる根拠は乏しい、と研究者自身が書いています(Lee et al., 2019)。
由来も、はっきりとは分かりません。同じ論文は、有力な説明として、1965年に日本で売られた歩数計の商品名を挙げています。その名前が「1万歩を数えるもの」だった、という話です。先に切りのいい数字があり、あとから健康との関係が調べられた、という順番です。
少ないところから増やすと、差が大きい
2025年のまとめ研究は、歩数計や活動量計で測った歩数と、その後の健康を追った研究を集めています。レビューには57件、35の集団が入り、数字を統合できたのは24集団の31件です。1日およそ2000歩の人と比べ、およそ7000歩の人は、あらゆる原因による死亡の起きやすさが0.53倍(結果のぶれを含めると0.46〜0.60倍)でした。死亡、心臓や血管の病気の発症、認知症、転倒では、5000〜7000歩あたりで曲線が曲がり、そこから先は伸びが緩くなっていました(Ding et al., 2025)。
0.53倍は、「死亡する確率が47ポイント下がる」という意味ではありません。約2000歩の人たちと比べて、約7000歩の人たちの死亡の起きやすさがおよそ半分だった、という関連です。もともと亡くなる人が少ない集団なら、実際に減る人数は小さくなります。
同じ比較では、心臓や血管の病気の発症は0.75倍(0.67〜0.85倍)、認知症は0.62倍(0.53〜0.73倍)、2型糖尿病は0.86倍(0.74〜0.99倍)、落ち込みの症状は0.78倍(0.73〜0.83倍)、転倒は0.72倍(0.65〜0.81倍)でした。がんの発症は0.94倍(0.87〜1.01倍)で、はっきりした差とは言えません。一方、がんで亡くなる起きやすさは0.63倍(0.55〜0.72倍)、心臓や血管の病気で亡くなる起きやすさも0.53倍(0.37〜0.77倍)でした。著者たちの評価では、あらゆる原因の死亡は確からしさが中くらい、心臓や血管の病気による死亡は低め、転倒はとても弱い、となっています。
曲がり角のあとも、効果がゼロになるわけではありません。このまとめの著者たちは、よく動く人にとって1万歩は今でも現実的な目標になりうると書いています。7000歩は、意味のある差が出ていて、人によっては届きやすい目標だ、という位置づけです。
年齢でも、曲がり角はずれます。15の集団、4万7471人、死亡3013人を、中央値で7.1年追った統合では、いちばん少ない群(1日の歩数の中央値3553歩)に比べ、5801歩で死亡の起きやすさが0.60倍(0.51〜0.71倍)、7842歩で0.55倍(0.49〜0.62倍)、10901歩で0.47倍(0.39〜0.57倍)でした。60歳以上では6000〜8000歩あたりまで、60歳未満では8000〜1万歩あたりまで、リスクが下がっていきました(Paluch et al., 2022)。
1万歩という目標を直接疑った、高齢女性の研究もあります。米国の女性1万6741人(平均72歳)が腰に機器を着け、平均4.3年のあいだに504人が亡くなりました。歩数の少ないほうから4群に分けると、中央値は2718歩、4363歩、5905歩、8442歩で、死亡の起きやすさは1倍、0.59倍(0.47〜0.75倍)、0.54倍(0.41〜0.72倍)、0.42倍(0.30〜0.60倍)でした。およそ4400歩の時点で、およそ2700歩より死亡が少なく、7500歩あたりで曲線は横ばいになっています。両端の群の差は、1年あたり1000人につき約9人の死亡でした(Lee et al., 2019)。
日本の案内は、1万歩ではない
日本の公的な案内も、1万歩ではありません。成人には、歩くくらいの強さの活動を1日60分以上、歩数にすると1日およそ8000歩以上、としています。高齢者には、同じ強さの活動を1日40分以上、歩数にするとおよそ6000歩以上、です。全体の方向は「今より少しでも多く、個人差を見て、できるものから」で、全員が同じ線を越える基準、という意味を避けるために名前も「基準」から「ガイド」に変わっています(厚生労働省, 2023a)。
8000歩の内訳も、ガイドに書いてあります。60分歩くと約6000歩です。それより弱い家事などは1日約2000歩に相当する、という置き方をして、合計を約8000歩にしています(厚生労働省, 2023b)。スマホに出る1日の合計歩数は、散歩だけでできた数字ではありません。家の中の移動も入ります。
体力のある高齢者には、成人と同じ量も選択肢だとガイドは書いています。6000歩が厳しければ、今より10分多く動かすところからでよい、とも書いてあります(厚生労働省, 2023c)。
速さは、研究によって言うことが違う
歩数を揃えたうえで「速く歩くほどよいか」は、研究で揃っていません。高齢女性の研究では、1日の歩数を考慮すると、テンポと死亡の関係はほとんど残っていませんでした(Lee et al., 2019)。15集団の統合では、いちばんよく動いた30分のテンポは0.67倍(0.56〜0.83倍)、60分のテンポも0.67倍(0.50〜0.90倍)で、歩数を考慮したあとも死亡の少なさと関連していました。一方、1分あたり40歩以上、または100歩以上で歩いていた時間は、歩数を考慮すると明確な関連が残っていませんでした(Paluch et al., 2022)。
米国の40歳以上4840人を平均10.1年追った研究でも、4000歩と比べて8000歩は死亡の起きやすさが0.49倍(0.44〜0.55倍)、1万2000歩は0.35倍(0.28〜0.45倍)でした。テンポは、歩数を考慮すると明確な関連が残っていませんでした(Saint-Maurice et al., 2020)。死亡との関係で、研究が一致して見ているのは歩いた量のほうです。
では、歩数計の数字をどう見る?
- 今の歩数が2000〜4000歩にとどまっている人は、1万歩を必達にするより、まず増やすことに意味があります。研究で差が大きいのは、このあたりから7000歩前後へ動くときです。
- 成人の日本の案内を歩数計で見るなら、1日の合計でおよそ8000歩が、60分歩くことに弱い動きを足した目安です。高齢者の案内はおよそ6000歩です。
- すでに1万歩近く歩けていて、痛みや疲れが残らないなら、7000歩まで減らす理由はこれらの研究からは出てきません。1万歩を目標にしてよい、と2025年のまとめも書いています。
- 9999歩で終わった日が、失敗になるわけではありません。
- 持病、痛み、転びやすさがある場合は、歩数を追って無理をせず、医師や理学療法士などに相談してください。
ただし...
ここまでの数字は、歩数を無作為に割り当てて何年も死亡を追った試験ではありません。もともと健康な人、時間に余裕がある人、外出できる人のほうがよく歩き、早く亡くなる人が少ない、という可能性があります。研究は喫煙や病気の有無などを揃えていますが、揃えきれない違い(交絡)は残ります。病気が先に進んで歩数が落ち、その後に亡くなる、という逆の順番も混じります。高齢女性の研究では、観察の最初の1年と、すでに心臓病・がん・糖尿病のある人を除いても結論は似ていましたが、これで逆の順番が消えるわけではありません。確度を「中〜高」にしたのは、死亡が少ない方向は複数のまとめ研究で揃っている一方、何歩で伸びが鈍るかは揃いきらず、実験で原因を確定できていないためです。
曲がり角の位置は、研究でずれます。高齢女性ではおよそ7500歩で横ばい(Lee et al., 2019)、年齢で分けた統合では60歳以上が6000〜8000歩、60歳未満が8000〜1万歩でした(Paluch et al., 2022)。17件、約22万7000人の別のまとめでは、歩数の中央値が約3900歩の集団に比べ、約5500歩で全死亡が48%少なく、約7400歩で55%少なく、約1万1500歩で67%少なく、高いほうでも差が残っていました(Banach et al., 2023)。米国の40歳以上でも、1万2000歩は4000歩より死亡が少ない関連でした(Saint-Maurice et al., 2020)。「何歩で頭打ちか」を一つの数字にはできません。2025年のまとめも、多くの病気では研究数が少なく、年齢別の分析がなく、個々の研究に偏りが残ると制限を書いています(Ding et al., 2025)。
機器によって1歩の数え方は違います。研究の多くは腰や手首の研究用機器で、数日だけ測った平均です。スマホのアプリや市販の時計と同じ数字にはなりません。装着を忘れた日は少なく出ます。
日本の人だけで死亡まで追った歩数の研究は小さく、71歳の419人を平均9.8年見て、死亡は76人でした。1日7972歩を超える群は、4503歩未満の群より死亡の起きやすさが0.46倍(0.22〜0.96倍)でしたが、中間の群は明確に低くなく、歩数が多いほど低いという傾向も明確ではありませんでした(Yamamoto et al., 2018)。15集団の統合にはこの日本の集団も入っていますが、人数の中心は日本以外です。
日本の8000歩・6000歩は、活動の時間を歩数に置き換えた案内です。60分歩くと約6000歩、という換算は歩く速さで変わります。1万歩と比べる実験から決めた境目ではありません。
このページが見ているのは、主に死亡と病気との関係です。体重を落とす目的で1万歩がよいかは、別の問いです。
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参考文献
- Lee, I.-M., Shiroma, E. J., Kamada, M., Bassett, D. R., Matthews, C. E., & Buring, J. E. (2019). Association of step volume and intensity with all-cause mortality in older women. JAMA Internal Medicine, 179(8), 1105–1112. https://doi.org/10.1001/jamainternmed.2019.0899
- Paluch, A. E., Bajpai, S., Bassett, D. R., et al. (2022). Daily steps and all-cause mortality: a meta-analysis of 15 international cohorts. The Lancet Public Health, 7(3), e219–e228. https://doi.org/10.1016/S2468-2667(21)00302-9
- Ding, D., Nguyen, B., Nau, T., et al. (2025). Daily steps and health outcomes in adults: a systematic review and dose-response meta-analysis. The Lancet Public Health, 10(8), e668–e681. https://doi.org/10.1016/S2468-2667(25)00164-1
- Saint-Maurice, P. F., Troiano, R. P., Bassett, D. R., et al. (2020). Association of daily step count and step intensity with mortality among US adults. JAMA, 323(12), 1151–1160. https://doi.org/10.1001/jama.2020.1382
- Banach, M., Lewek, J., Surma, S., et al. (2023). The association between daily step count and all-cause and cardiovascular mortality: a meta-analysis. European Journal of Preventive Cardiology, 30(18), 1975–1985. https://doi.org/10.1093/eurjpc/zwad229
- Yamamoto, N., Miyazaki, H., Shimada, M., et al. (2018). Daily step count and all-cause mortality in a sample of Japanese elderly people: a cohort study. BMC Public Health, 18, 540. https://doi.org/10.1186/s12889-018-5434-5
- 厚生労働省 (2023a). 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要). https://www.mhlw.go.jp/content/001204942.pdf
- 厚生労働省 (2023b). 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(成人版). https://www.mhlw.go.jp/content/001195866.pdf
- 厚生労働省 (2023c). 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(高齢者版). https://www.mhlw.go.jp/content/001195868.pdf