VRって画面めっちゃ近いけど目悪くならないの?
一言でいうと...
画面が物理的に近いから視力が落ちる、という証拠は弱いです。 レンズがあるので、目は数センチ先ではなく、もっと遠くの絵にピントを合わせています。疲れや、使った直後の一時的な変化は起きます。何年も毎日使ったときの影響は、まだ分かっていません。
詳しくは...
近いのは画面で、見ている距離ではない
VRの画面は、確かに目のすぐ前にあります。スマホをはめ込むタイプのヘッドセットを2時間使った実験では、画面から目までの距離はおよそ5〜6.5cmでした(Yoon et al., 2021)。本をその距離まで顔に押しつけたら、ピントはまず合いません。
ヘッドセットは、その手前に凸レンズを置いています。近い画面から出た光を、もっと遠くにある絵として目に届けます。別の実験で使ったヘッドセットでは、そのピントがおよそ1メートル先になるよう調整されていました(Turnbull & Phillips, 2017)。機種によってこの距離は違います。市販のヘッドセットでは、画面そのものの位置と、目が合わせる距離は同じではありません。
つまり、VRで目が働いているのは、顔に貼りついた画面を睨む作業ではありません。レンズが作った、ある程度離れた絵を見ています。
ピントは固定なのに、寄り目だけが動く
もう一つ、普通の景色と違う点があります。現実の世界では、近いものを見るとき、目は内側に寄り、同時にピントも近くに合わせます。VRでは、絵の中の距離が変わっても、レンズのピントはほぼ固定です。近い物を見るために目は寄りますが、ピントの距離は動きません。
このずれは、立体の映像で以前から知られています。寄り目とピントが噛み合わないと、二つの目の絵を一つにまとめるのが難しくなり、疲れが出ます(Hoffman et al., 2008)。職場で使うVRをまとめた記事も、ほかの画面より目の疲れが出やすく、主な理由の一つはこのずれだとしています(Souchet et al., 2022)。
30分の卓球ゲームのあとでは、ピントの合わせ方は変わった一方で、寄り目は同時には変わっていませんでした。変化が大きい人ほど、気持ち悪さの訴えも強い傾向がありました(VR群27人、ふだん通りに過ごした群28人。Szpak et al., 2019)。
使った直後、メガネの度はほとんど動かない
「目が悪くなる」を、メガネやコンタクトの度数が進むことだとすれば、短い実験ではそれが起きていません。
13〜18歳の約60人が、立体映画かVRを30分見ました。平均年齢は14.7歳で、もともとメガネの度数の平均はおよそ−3.1でした。見た直後、度数の平均ははっきりとは変わりませんでした。一時的に近視の方向へずれることはありましたが、そのずれは40分以内に戻っています(Ha et al., 2016)。
20〜39歳の58人(平均25.2歳)が、別の日にVRゲームとスマホのゲームをそれぞれ2時間しました。どちらのあとでも、度数は統計的には変わっていません。VRのあとは、文字がぼやけ始める距離の中央値が両目とも8cmから9cmに遠くなりました(スマホのあとも、利き目だけは統計的に遠くなっています)。VRのあとだけ、寄り目が外れる距離も6cmから6.5cmに遠くなり、近くを見たときの目の外側へのずれも、ずれの単位で5から6に少し大きくなり、立体の見え方の検査の成績もわずかに下がりました。乾きや、頭痛・めまい・気持ち悪さの訴えは、スマホよりVRのほうが強いものでした(Yoon et al., 2021)。ここでの測定は、使い終わって3分後です。次の日まで残るかは、この実験では見ていません。
30分のVRでも、没入する遊び方のあとに、ピントと寄り目の限界が遠くなった、という23人の実験があります。度数はこのときも変わっていません(Yoon et al., 2020)。
18〜35歳の19人が、室内と屋外を、現実とVRでそれぞれ40分過ごした実験では、目の位置や立体視、ピントを合わせられる幅の変化は、VRと現実で差がありませんでした。一方、網膜の外側にある脈絡膜という膜は、現実のあとでは厚さが変わらず、VRのあとだけおよそ0.01ミリ厚くなりました。著者たちは、これは目が伸びて近視が進む方向の信号ではなく、伸びを抑える方向の信号に見える、と書いています(Turnbull & Phillips, 2017)。
疲れない、とは別の話
度数が進まないことと、気持ちよく使えることは同じではありません。ずれを大きくした30分のVRでは、吐き気、目の違和感、方向感覚の乱れが増えました。そのとき、目の位置やピントの遅れ、寄り目の限界は、統計的には動いていません(女性18人、平均22.5歳。Dymczyk et al., 2024)。30分の使用で目の数値が動くかどうかは、実験によって揃っていません。動いたという報告(Szpak et al., 2019; Yoon et al., 2020)と、この実験のように動かなかったという報告があります。不快さが出ることは、どちらでも報告されています。
すでに目が外側へずれやすい人は、VRのあと、そのずれが広がりやすい傾向もありました(Yoon et al., 2021)。絵が二重に見える、痛い、気持ちが悪い、というときは、外すのが先です。
子どもについては、10代が30分使った直後の度数は戻っていました。小学校くらいの年齢が、何年も毎日使ったときに近視が進むかは、追った研究が見当たりません。1回の実験の「度数が動かなかった」を、長年の安全だとは読めません。
ただし...
ここまでの実験は、30分から2時間を1回か2回見たものです。毎日何年も使ったときの近視の進みは、どの研究も見ていません。対象は主に10代後半から30代で、目の長さがまだ変わりやすい、もっと小さい子どもにはそのまま当てはまりません。確度を「中」にしたのは、短い使用で度数がすぐ進む証拠は複数の実験で弱い一方、長年の影響は調べられていないためです。
脈絡膜が厚くなったことから「VRは近視を進める刺激ではなさそう」と読んだのは、40分の19人の実験です(Turnbull & Phillips, 2017)。2時間の58人の実験では、脈絡膜の厚さはVRでもスマホでも変わっていません(Yoon et al., 2021)。短時間の厚さの変化が、その後の目の伸びを予言する、という考え方自体、証拠が足りないとするまとめがあります(Ostrin et al., 2023)。0.01ミリ厚くなったことを、近視が止まる証拠にはできません。
寄り目とピントのずれが疲れを起こす、という古典的な実験は、市販のヘッドセットではなく、研究室の立体ディスプレイでのものです(Hoffman et al., 2008)。ヘッドセットでも同じ仕組みは説明されていますが、疲れの強さは機種、絵の作り、遊ぶ時間で変わります。
2時間の実験で動いた距離は、ピントで約1cm、寄り目で約0.5cm、目のずれで1段階です。統計的には差があっても、視力が一段落ちた、という意味ではありません。測ったのは使い終わりの数分後で、戻るまでの時間は追っていません。30分の10代の実験で戻ったのは、度数の一時的なずれのほうです(Ha et al., 2016)。
人数も大きくありません。19人、23人、約60人、58人です。ヘッドセットの世代も違い、レンズのピント距離が約1メートルと書かれていたのは、そのうちの古い世代の1機種です。今の機種が同じ距離とは限りません。度数を合わせずにぼやけたまま遊ぶ負担や、目の病気がある場合は、これらの平均とは別に考える必要があります。
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参考文献
- Turnbull, P., & Phillips, J. R. (2017). Ocular effects of virtual reality headset wear in young adults. Scientific Reports, 7, 16172. https://doi.org/10.1038/s41598-017-16320-6
- Yoon, H. J., Moon, H. S., Sung, M. S., Park, S. W., & Heo, H. (2021). Effects of prolonged use of virtual reality smartphone-based head-mounted display on visual parameters: a randomised controlled trial. Scientific Reports, 11, 15382. https://doi.org/10.1038/s41598-021-94680-w
- Yoon, H. J., Kim, J.-H., Park, S. W., & Heo, H. (2020). Influence of virtual reality on visual parameters: immersive versus non-immersive mode. BMC Ophthalmology, 20, 200. https://doi.org/10.1186/s12886-020-01471-4
- Ha, S.-G., Na, K.-H., Kweon, I.-J., Suh, Y.-W., & Kim, S.-H. (2016). Effects of head-mounted display on the oculomotor system and refractive error in normal adolescents. Journal of Pediatric Ophthalmology & Strabismus, 53(4), 238–245. https://doi.org/10.3928/01913913-20160511-01
- Szpak, A., Michalski, S. C., Saredakis, D., Chen, C. S., & Loetscher, T. (2019). Beyond feeling sick: The visual and cognitive aftereffects of virtual reality. IEEE Access, 7, 130883–130892. https://doi.org/10.1109/ACCESS.2019.2940073
- Hoffman, D. M., Girshick, A. R., Akeley, K., & Banks, M. S. (2008). Vergence–accommodation conflicts hinder visual performance and cause visual fatigue. Journal of Vision, 8(3), 33. https://doi.org/10.1167/8.3.33
- Souchet, A. D., Lourdeaux, D., Pagani, A., & Rebenitsch, L. (2022). A narrative review of immersive virtual reality’s ergonomics and risks at the workplace: cybersickness, visual fatigue, muscular fatigue, acute stress, and mental overload. Virtual Reality, 27(1), 19–50. https://doi.org/10.1007/s10055-022-00672-0
- Dymczyk, M., Przekoracka-Krawczyk, A., Kapturek, Z., & Pyżalska, P. (2024). Effect of a vergence-accommodation conflict induced during a 30-minute Virtual Reality game on vergence-accommodation parameters and related symptoms. Journal of Optometry, 17(4), 100524. https://doi.org/10.1016/j.optom.2024.100524
- Ostrin, L. A., Harb, E. N., Nickla, D. L., et al. (2023). IMI—The dynamic choroid: New insights, challenges, and potential significance for human myopia. Investigative Ophthalmology & Visual Science, 64(6), 4. https://doi.org/10.1167/iovs.64.6.4